完成度の高い、一級の作品だった。途中の休憩なしで最後の最後まで緊迫感をもって劇は展開した。
原作はイギリスのJ・B・プリーストリイという人で、調べたら岩波文庫にもはいっている。とても有名な出し物で映画にもなっている。わたしはまったく知らなかった。
原作は、20世紀初頭のイギリスの話だそうだが、今回見たのは、1940年の日本。金持ちの倉持家の応接室が舞台になる。舞台が日本になっても、まったく違和感がなかった。原作の完成度が高く、また脚本もすばらしい、と言うことなのだろう。
倉持家では、娘の婚約を喜び、楽しい団らんのひとときを過ごしている。そこに影山という「警部」が来訪する。警部は、ひとりの若い女性が自殺したことを告げる。そしてその自殺には、登場人物の全員がなんらかのかたちで関与していたことを、次々とあばいていく。
ひとりの若い女性が生きていくなかで、様々な人びとと関わりを持つ。その関わりには軽重があるが、彼女の人生が関わりを持った彼らによっていろいろな影響を受ける。そして、その影響が彼女の人生を押し潰していく。
彼女の死に関して、登場人物全員に責任があることを、警部は気づかせていく。しかしそれを認識したくない者(会社経営者の倉持夫妻、娘の婚約者)がいて、彼らはその警部が語ったことを疑い、若い女性の死、警部の存在自体を消し去ろうとする。
ところが最後には、それが事実となる。警部が来訪して登場人物に責任があることを気づかせたこと、それは近未来に起こることであったのだ。
人間は生きていく上で、様々な人と関わる。それらの関わりが、ひとりの人間の人生に様々な影響を与えていく。「知らない人」のことではなく、その「知らない人」と自分自身は、なんらかの関わりをもっているのだ。ということは、「知らない人」にも何らかの責任がある、ということだ。
この演劇、まことにスリリングであった。久しぶりに良い演劇を見た。