浜田知明の展覧会には何度も行った。香月泰男の展覧会には一度行ったことがあるだけだ。この二人の画家は、兵士として動員され、戦争の実相をじっくりと画家の目で見てきた。だから、彼らの作品には、戦争の本質が込められている。
浜田の展覧会で購入した図録は4冊ある。香月は一冊だけだ。だから香月に関わる本を、たくさん読まなければならない。歴史講座で話すことになっているからだ。
香月は、1911年10月、山口県に生まれる。東京美術学校油絵科に入学し、卒業後教員となる。1938年結婚。1943年1月、召集される。香月の兵種は丙種合格であった。31歳であった。最初は教育召集であったが、4月に本召集に変更され「満州」に行き、そして敗戦によりシベリヤに抑留される。1947年5月に復員し、下関高等女学校の教員となる。
香月はシベリヤで体験したことを「シベリヤシリーズ」として描いている。それは山口県立美術館にある。
さてこの本であるが、妻の目から見た香月泰男の姿が微笑ましく描かれている。文の間には、たくさんの香月の絵がはさまれているが、そのほとんどが頬笑ましい親子の絵である。
香月は成育過程で、家族の縁がうすかった。香月の母は、婚家と肌があわなかったために、家を出たり入ったりを繰り返していた。父は再婚し、しかしその後妻を出して母が戻ってきた。が結局別れてしまい、父は朝鮮で亡くなり、泰男は祖父の手で育てられることとなった。母や父の後妻とも良い関係であったが、結局母との生活をほとんど経験しなかった。
だから香月は、家族をとても大切にした。それがよくわかる絵が、本書にはたくさん掲載されている。それらの絵には、香月の愛が静かに描かれている。親子の愛情、平和な風景、香月の温かい眼。いずれの絵も戦後の絵であるが、こういう絵を描く画家が非人間的な戦場や抑留生活を生きなければならなかったのである。