8月13日、第29回燮会に参加してきました。お盆休みの真っただ中ということもあり、通常より少人数での会となりましたが、今回は改めて「交渉とは何か」を考えるということで日本交渉協会会長、藤田忠先生監修による交渉ビデオ鑑賞と同副会長、土居弘元先生による交渉学講義が行われました。
初めのビデオ鑑賞は、今や入手困難な1990年頃と思われる日本経済新聞社から発売されていたVHS、『勝つための交渉術』。細かくは述べられませんが、以下にそのあらましを挙げたいと思います(自分のメモを元にしているため、ビデオの構成そのものではありません)。
Ⅰ.対内交渉の重要性
・対外交渉の成否は、対内交渉に依存する(対外交渉30%、対内交渉70%)
・「夫れ、将は、国の輔なり。輔、周なれば、則ち国必ず強く、輔、隙あれば、則ち国必ず弱し。」-『孫子』(謀攻篇)-
Ⅱ.バランス理論と信頼関係
・ゼロサム交渉→交渉条件の追加→ノンゼロサム交渉へ
・AとBの信頼関係を変える、C(ヒト・モノ・コト)の存在が重要
・交渉のライフサイクル理論(信頼関係の高低における論理力と心理力)
Ⅲ.交渉の準備(重要)
・相手側情報の収集と分析
・「先知は…敵の情を知る者なり。」-『孫子』(用間篇)-
・交渉項目の決定と優先順位の決定(チャーチマン・エーコフの方法)
・要求の正当化(価値観+論理体系+大義名分)
Ⅳ.戦略の立て方と選び方
・初期陣形を高く
・交渉最下点を決める
・最悪事態に備える(ミニマックス決定基準)
・戦略決定のプロセス(ディシジョン・ツリー)
Ⅴ.交渉の実践テクニック
・平常心を失うな
・ポーカーフェイスを守れ
・相手の本音を見抜け
・相手の面子を立てる(承認欲求を満たす)
・こちらの本音を隠せ(ショッピングリスト方式)
・脅しに負けるな
・交渉はNoから始まる
・行き詰まりを恐れるな(90-10の法則)
・押さば廻れ(攻:一点集中主義、守:パッケージ作戦)
・「我は槫まりて一と為り、敵は分れて十と為らば、是れ十を以て其の一を撃つなり」-『孫子』(虚実篇)-
・譲歩の幅は徐々に小さく(ナッシュ点)
さて、後半は土居弘元先生による交渉学講義。先のビデオは25年以上も前のものですので、特別目新しい内容ではありません。しかし、ロジャー・フィッシャーとウィリアム・ユーリーが”Getting to Yes”(邦題『ハーバード流交渉術』)で「原則立脚型交渉」を世に問うたのは1981年。それから約10年後が先ほどのビデオです。そして現在もなお様々な交渉理論や交渉術が巷間に溢れ、まさに百家争鳴の様相を呈しています。にもかかわらず、人々が一般に「交渉」というものに対して抱くイメージは、昔も今も余り変わっていないのではないかという印象があります。
それだけに、改めて「交渉とは何か」について考え、自分の価値観を反映させた定義をしっかりと持っておくことには意義があるのではないかと思いました。出席者から「交渉は未だに戦争のメタファーから抜け出せていないのではないか?」というご意見がありましたが、上記にも『孫子』をいくつか引用している通り、まさにその通りだと思います。
交渉とは何か?今回は非常に限られた時間の中で、「複数人が目的を達成するために協働する行為」としてまとまりましたが、土居先生も今回だけにとどまらず「自分の交渉術を確立してほしい」とおっしゃっていました。
さて、次回は9月6日(火)に「交渉学特別セミナー」が開催されます。
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燮会は、日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした