7月12日、mass×mass関内フューチャーセンターにおいて、第85回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。
僕が出席できなかったため、今回は他のYMS理事からのセミナー・レポートになります。
<以下本文>
今回は心療内科医・精神科医でもあり、シバタ・コーチング・オフィス、C&Sメンタルヘルスパートナーズ株式会社・代表 芝田 英生様より、「日常の中に於ける、精神科疾患による影響」と題してお話しいただきました。
経営者、マネージャーの立場の人にとっては、身近な課題でもあることから、みなさん最初から真剣な眼差しで参加されていました。
セミナーの前段、芝田先生から、人間は、集団生活する生き物である。ということを教えていただきました。確かに、現在社会の中で、人は完全に孤立無援で生きていくことは難しく、ほとんどの人はなんらかの集団に属して生きています。集団生活の中で必要なスキルとしては、コミュニケーションスキル、協業スキル、相手を理解するスキルなどがあげられますが、なんらかの要因でこれらスキルが欠如している人もいるでしょう。
私たちは千差万別、誰も「普通」はいないはずなのに、自分や周囲の同類タイプの人間間で培われる「一般的な常識」と型にはめた基準を、知らず知らずに相手に強要していることもあるかもしれません。それは、頭の中では理解しても、実際には一つの会社組織の中で、集団で同じゴールを目指し、高いパフォーマンスを追求しなければならない状況下にあるとき、明らかに周囲の人と「違い」を持った部下を育成したり、マネージメントしたりしなければならないのは非常に困難であることが、セミナー参加者のみなさんとの意見交換であらためて認識しました。
そういった人とうまく処しきれないまま悩んでいたり、結果的にその人と決別せざるをえなかったりした苦い経験談は多く聞かれましたが、成功した、うまく課題解決したという方はありませんでした。それだけ、一筋縄では解決できない課題なのだろうと思いました。
芝田先生には、そういった「違い」が顕著で、うまく集団生活になじめない人にも十人十色、それぞれ別の方法でサポートしていけば、改善は可能ということを教えていただきました。果てしなく根気強く相手を向き合う覚悟が求められると感じ、私には、日常職場でもその他でも、全然それができていないな、許容性が低いんだなと反省させられました。
大人の発達障害には、最近よく聞かれる、「アスペルガー症候群」「自閉症スペクトラム障害」「ADHD:注意欠陥多動症」などがあります。障害と日本語でいうと、ハンディキャップ(handicap)という英語訳を連想しますが、海外では、ディスオーダー(disorder)という言葉が使われるそうです。あくまでも、違いであって、ハンディキャップではない、ということを頭に刻んでおきたいと思いました。
みなさんもご存知のとおり、大人の発達障害もつ人の中には、並はずれた集中力や好奇心を持ち、優れた能力を発揮する芸術家、技術者、 スポーツマンが多いです。
スティーブジョブズ ビルゲイツ、エジソン、アインシュタイン、黒柳徹子、スピルバーグ、ディズニー、トムクルーズ、ケネディ・・・等。
大切なことはその人も持ち味を生かし、その人らしく生きるサポートを身近な人ができるかどうか、また自分自身もそのことを自覚し、許容し、適切に医師の診断や処方に従って治療を受けることは肝心であることを学びました。
さらに、躁うつ病、双極性感情障害など、自分の感情がコントロールできないタイプの人もいます。そういった人も、うまくその症状と付き合って、芸能活動や創作活動にあたる著名人はいます。
明石家さんま、北杜夫、志村けん、香取慎吾、ゴッホ、夏目漱石・・・等
愛着障害・不安障害という症状を持つ人には、自分のことを大事に思うことができず、自尊心が低い、他者への想像力が働かない等の傾向がみられ、基本的な社会性が育ちにくいとされています。残念ながら、1歳半までの期間に養育者との間に愛着の絆がないと、安定した愛着形成は困難になりやすそうです。
幼児虐待や、育児放棄など、子育てに関する大きな社会問題が深刻になってきている今、すぐに、自分自身が解決することができなくても、こういった事前知識を持っておくということはとても大切だなと思いました。
ノーベル文学賞をとった川端康成は不安障害を持っていたそうです。三島由紀夫はアスペルガー、北杜夫は躁のときには「ドクトルマンボウ航海記」、うつ状態のときには「夜と霧の間」とまったく違う作風を書き上げました。
ゴッホ、ムンク、ピカソ、山下清、フランコ・マニヤーニ 、モーツアルト、シュベルト、ショパン、シューマン、チャイコフスキー ・・・・。
世の中に残されたすばらしい芸術や作品は、多くのdisorderの特性をもった人から生まれていることを考えると、多少集団生活が得意でなくても、そういった方の秘めた才能を、他の人が補完したり、もっと上手に引き出したりする術をもっていれば、ハッピーになれるような気がしました。
私たちは、精神障害をもつ人とどう関わっていけばよいのか。芝田先生曰く、変われないところと、変われるところもあるため、疾患性と、事例性を分けて考えて欲しいとのことです。もし、職場でいつもの部下の様子に以下のような変化が現れてきたら、産業医・保健師に相談したり、専門家のアドバイスを求めるように促したりすることが重要だそうです。
・指示を聞いても覚えられない
・ケアレス・ミスが多い
・平行業務ができない
・判断・決断ができない
・忘れ物・失くし物が多い
・約束を忘れる・遅刻する
・片付けができない
・同じミスを繰り返す
・説明しても正しく伝わらない
個人的な感想ではありますが、私たちは専門家ではないため、その人の症状に適切な診断と治療方法を提供することはできません。専門的な知識はなくとも、どういったタイプの障害があって、その人にはどんな特徴があるのかを理解しておけば、よき相談相手になれるかもしれません。
その人となんらかの障壁や問題がある場合、その原因を無理解のまま切り捨てることで処理するのでなく、向き合って一緒に改善できるような働きかけが必要なんだと思いました。
相手に対して、忍耐強く、「愛」と「寛容」と「尊厳」をもって付き合えなければ。とてもハードルの高い管理職としての要件を突き付けられた気がいたしました。
とにかく無関心であってはいけないと・・・・。
まだまだ勉強する課題は多いな、とおもった今回のYMSセミナーでした。
<その他の参加者からの感想もご紹介いたします>
職場のメンタルヘルスに関与する産業医として、比較的よくある人間関係のトラブルについて、発達障害やうつ病といった精神科疾患としての見方・対処の仕方を教えていただいた。職場では、具体的な行動に関する「事例性」が重要ということで、参加者の経験や感想に丁寧に答えながら、著名な芸術家や俳優の事例を織り交ぜて、身近なトラブルを「白黒」つけずに観る見方を勉強した。本人自身にも「出来ること」と「出来ないこと」があり、職場の上司としてはあまり無理をせずに、産業医などの第3者のサポートをうまく活用することが望ましい。生きにくい時代なので、せめて仕事(と、お疲れさま呑み会)を楽しみたいと思った。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした