四国八十八か所巡りのことを初めて知ったのはいつ頃だったでしょうか?はっきりとした記憶はありませんが、恐らく1993年、所属していた大学の映画サークルで、松山出身の先輩が作成した自主製作映画『八十八つ』を観たのが最初ではなかったかと思います。
さて、10月9日、mass×mass関内フューチャーセンターにて、第113回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回のテーマは、過去112回のジャンルにはなかった、「歩き遍路」の楽しみ。過去23年で4度の八十八か所巡礼を成し遂げられ、YMSにも何度もお越しいただいている、串間洋さんよりお話しをいただきました。
四国八十八か所巡礼とは、人間に88あるという煩悩を払うため、弘法大師にゆかりのある88か所の寺院を巡る旅のことです。「歩き遍路」、距離にして1,122㎞。お遍路はそもそも歩くものではないかと思っていたのですが、毎年20万人~30万人と言われる巡礼者のほとんどが今や車やバスでの移動だそうです。実際に歩いているのは1%程度なのだとか。
歩き遍路は徳島県の一番札、霊山寺に始まり、高知、愛媛、香川と巡って、最後の八十八番札である大窪寺まで40日~50日かかるそうです。88か所を結ぶ道も一筋ではなく、地図や途中の標識が頼り(現在はスマホアプリもあるようですが、充電に難がありそうです)。言うまでもなく四国は山がちですから、標高910mに至る難所もあるようです。どう考えても一筋縄ではいかないことが分かります。また、現在は道が舗装されているのでと考えるところですが、舗装されていない山道も多く、逆に舗装道路はかえって足への負担が大きくなります。何より歩いている人がほとんどおらず、都会のように至る所に自動販売機やコンビニがあるという訳でもないので、水分補給のタイミングも重要なポイントになります。宿泊は、民宿、お寺の宿坊、はては野宿など。食事やトイレはもちろん、意外にも洗濯のための洗濯機確保が重要だそうです。
お遍路は金剛杖を持って歩きます。金剛杖は弘法大師の化身としての役割があるとされ、弘法大師と共に歩くことになるので、これを「同行二人」と言います。弘法大師の化身ですから、粗末に扱ってはいけません。宿でも杖は床の間に置くそうです。また、愛媛県にある別格霊場8番札所、「十夜ヶ橋」は、弘法大師が橋の下で野宿をしたという「十夜ヶ橋伝説」が残っており、この橋の上では杖をついてはいけないとのこと。
さて、札所(お寺)に到着したら、次のようなことをします。
① 手水(ちょうず)を使う
② 鐘をつく
③ 参拝
④ 写経奉納(納札で代用する場合も)
⑤ 読経(一番短いもので般若心経。諳んじていても必ず経本を読む)
⑥ 納経帳(御朱印帳のようなもの)に書いてもらう
⑦ 御影(仏様の肖像画)をもらう
この他、お遍路の醍醐味として、地元の人との触れ合いがあるそうです。地方は車移動が主流のため、確かに道を歩いている人は少ないのですが、信仰の対象であるお遍路の巡礼者に対しては、「お接待」と呼ばれる沿道住民からの様々な支援があるそうです。その形は食べ物をふるまったり、宿を提供したりとっ様々ですが、必ず巡礼者に施しをしなければならないという決まりがあるわけではなく、あくまでその時々の巡礼者と住民との一期一会の交流であるようです。お接待は巡礼者に代理でお参りを託す「お布施」の意味合いがあるため、原則として断るべきではなく、有難く頂戴して納札を1枚差し上げるものだそうです。
健康のため、精神修養のため、自分を見詰め直すため。お遍路に挑戦する動機には様々なものがあるようですが、串間さんは心身を本質的に変容させるというよりは、洗濯してきれいにする感じだとおしゃっていました。もちろん、中には劇的な覚醒をされた方もおられるかもしれません。お遍路に参加する人は西暦2000年頃をピークに減り続けているようですが、最近ではご多分に漏れず外国人が増えているようです。
歩き遍路に適した季節はいつか?季節的に一番良いのは、別名「花遍路」とも呼ばれる春。しかし、一般に働いている人にとって3月や4月は休みの取りにくい季節でもあります。逆に夏は夏休みがあるので、休みは取りやすいですが、当然のことながら暑さが大敵。秋も季節は良いですが、四国なので台風に注意が必要です。冬は厳しそうですが、意外と快適だそう。ただし、前述のように標高の高いところも数か所あるので、注意が必要です。また、日が短い上、民宿も冬場は休業しているところも多いので、その点も注意が必要とのことでした。
なお、八十八か所巡りを達成することを「結願(けちがん)」、88番札所の大窪寺から1番札所の霊山寺まで戻り、八十八か所を環状に結ぶことを「満願」というそうです。
最後に、四国八十八か所のように、巡礼地を環状に結んだあり方は珍しく、一直線上に結んだ例としては、スペイン、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路があるそうです。
いつか自分も八十八か所巡りをすることになるのか?それは今のところ分かりませんが、こういう時でもなければ知る機会すらない、珍しいお話をたくさん伺うことができました。いつの日か、頭の片隅に残るこのお話が甦る時が来るかもしれません。
過去のセミナーレポートはこちら。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます