東京都庭園美術館 「エミール・ノルデ展」

東京都庭園美術館(港区)
「エミール・ノルデ展」-色彩と幻想の画家-
2004/9/18~11/7

こんにちは。

爽やかな秋晴れだった今週の日曜日、白金の庭園美術館で開催中のエミール・ノルデの展覧会を見てきました。ノルデは1867年に北ドイツで生まれ、ドイツ表現主義と言われるグループを代表した画家の一人です。晩年はナチス政権との対立(相互の誤解?)により制作活動を禁じられ、いわゆる「頽廃芸術」のレッテルを貼られたこともあったそうですが、今回の展覧会ではその時期の作品も含めて、水彩画と木版・銅板画、それにリトグラフなどを約120点程公開していました。ちなみにノルデの日本での個展は23年ぶりだそうです。

サブタイトルに「色彩と幻想の画家」とありますが、確かにどの作品も色彩感が見事でして、水彩画の持つ独特の味わいが、ノルデの器用な筆でさらに増幅されているような感じでした。また、作品の構成はあまりリアリティーを感じさせないものが多いのですが、その分、不思議な「翳」と「動き」があり、しばらく見ているとすーっと絵の中にひきこまれて、そのまま夢の中の世界のように、摩訶不思議な正に幻想的と言えるような雰囲気に支配されていきます。ところで、会場でこれらの絵を見ていた方が、ふと「暗い絵だねえ・・・。」と仰っていましたが、それはきっと絵の中から滲み出してくる寂しさのことではないか、と思いました。決して破壊的で陰鬱な表現ばかりではなく、一見、明るく愉快な表現もあるのに、何故かそこから感じられるものは哀愁とか、先ほども書きましたが翳とか、そのような言葉で言い表されるものです。ドイツ表現主義は「内面的な感情に重きを置く。」とのことですが、もしかしたらノルデの感情の何かがそのまま絵に表現されているのかもしれませんね。

色では「赤」がとても特徴的です。特に「赤いケシ」という、画面いっぱいにケシの花が描かれている作品があるのですが、このケシの赤は、例えが悪いですが「鮮血」のような赤でして、心に強烈な印象を与えます。また、「北フリースラントの夕景」は、低く垂れ込める雲に夕焼けが赤く映っているのですが、この赤は「赤いケシ」より薄いものの、雲そのものに重量感を与えて、空のくすんだ青と、地上の暗い紺との対比がとても美しい作品になっていました。(この2点は庭園美術館公式サイトからも見ることが出来ます。例によって質感はゼロですが。)

会場はテーマ別に作品が並んでいましたが、今挙げたような作品が並ぶ、「花」や「風景」の他にも、「ダンス」、「幻想」、「描かれざる絵」(制作活動が禁じられた期間に極秘に描いた絵。)などに、多くの素晴らしい作品があるように思いました。特に「ダンス」は、その構成が見事で、まるで飛びながら大空でダンスをしているようなスリリングで大きな動きが見られました。その他には、版画やリトグラフの作品もたくさんありますが、それらにも水彩画で見られるような立体感と翳があります。

「頽廃芸術」や「ドイツ表現主義」とかのような説明抜きでも、素直に感銘できるものがある、とても味わい深い展覧会だったと思います。これはかなりお薦めですね。

*会場がかなり暗く感じられて、とても作品が見にくかったのですが、作品保護のため致し方ないとのこと。でも、本当に照明が暗かった・・・。
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