「東大寺大仏 天平の至宝」 東京国立博物館

東京国立博物館台東区上野公園13-9
「光明皇后1250年御遠忌記念 東大寺大仏 天平の至宝」
10/8-12/12



東京国立博物館で開催中の「東大寺大仏 天平の至宝」のプレスプレビューに参加してきました。

誰もが知る奈良の東大寺とくれば大仏様ですが、当然ながら物理的な制約もあって東京にお出まし願うことはかないません。しかしながらタイトルに大仏とあるように、今回の展覧会ではその建立に関する天平時代の文物で、さも大仏開眼同時の様子を追体験し得るような構成がとられています。

第1章 東大寺のはじまり 前身寺院と東大寺創建
第2章 大仏造立
VRシアター「大仏の世界」
第3章 天平の至宝
第4章 重源と公慶


前半に東大寺とその周辺から出土した瓦などを並べ、中盤に目玉の八角燈籠や伎楽面などで大仏造立時の空間を再現し、VRシアターを挟んだ上で後半部の天平時代の文物や所縁の鎌倉仏などを紹介する流れとなっていました。

大仏開眼~八角燈籠~

開眼同時の華やいだ空間を楽しめるのが、大がかりなセットによって再現された大仏殿前庭、ようは八角燈籠と伎楽面を組み合わせた展示室に他なりません。


第2章「大仏造立」展示室

創建当初を思わせる朱一色の空間の中央には、天平時代から変わらぬ姿をとどめる八角燈籠が鎮座し、両脇には東大寺初代別当の「良弁僧正坐像」と快慶作の「僧形八幡神坐像」が控えていました。


八角燈籠 奈良時代 東大寺蔵

東大寺へは私自身も何度か行ったことがありますが、ここまで燈籠が美しく見えたことは多分ありません。どっしりと構えた縦4.6メートル超の燈籠は同時、金で覆われていたそうですが、ともかく見るべきは各面のレリーフではないでしょうか。実際のところ後の修復など、成立年代には諸説あるそうですが、巧みなライティング効果によって灯る姿はどこか神秘的ですらありました。


八角燈籠火袋羽目板 奈良時代 東大寺蔵

またこの燈籠に関してはもう一つ、重要な作品があります。それがほぼ創建の姿をとどめ、かつて燈籠にはめ込められていたという「八角燈籠火袋羽目板」です。何とこれは昭和37年、一度盗難にあったことがあるそうですが、(翌日発見。)分厚い透かし彫りの中で舞うように立つ音声菩薩の姿はとても力強く、天平期の高い造形技術を知ることが出来ます。見応え十分でした。

天平の舞い~伎楽面


第2章「大仏造立」展示室

そうした燈籠の前であたかも舞人たちように並ぶのが、東大寺に伝来する伎楽面、計10面です。


伎楽面 太孤父 奈良時代 東大寺蔵

開眼供養会にも用いられたという面の表情はそれぞれに個性的で、演じられたであろう劇の内容を呼び覚ますものがありました。

誕生釈迦仏立像


誕生釈迦仏立像及び灌仏盤 奈良時代 東大寺蔵

燈籠と伎楽面と並び、私のベスト3として挙げたいのが「誕生釈迦仏立像及び灌仏盤」です。釈迦の誕生を祝う法会の本尊として知られるこの仏像は通常、約10センチほどのものが多いそうですが、これは大仏様のサイズに合わせたのか約50センチもあります。もちろん古代最大でした。

またさらに注目すべきは下の香水を受ける灌仏盤です。この作品は360度の露出展示ですが、近くによって眼を凝らすと非常に細やかな紋様が施されていることが分かります。草花、虎、それに楼閣などを探してみるのも楽しいかもしれません。

輝かしき光背


不空羂索観音菩薩立像光背 奈良時代 東大寺蔵

さて何度か火災にあった東大寺ですが、それでも今に伝わる天平期の遺品も多く残されています。中でも印象に深いのはこの巨大な光背、「不空羂索観音菩薩立像光背」です。実は現在、立像の安置される法華堂は修復中ですが、今回はそれにあわせ、初めて寺外で公開されることになりました。

実のところ色々事情があるとは言え、光背のみの展示はいささか寂しいのも事実ですが、逆に捉えれば普段あまり注意しないこうした文物を一つの美術品として愛でるまたとないチャンスかもしれません。


二月堂本尊光背 奈良時代 東大寺蔵

光背ではもう一つ、江戸期の火災で大破してしまったという「二月堂本尊光背」も印象に残ります。形が相当に崩れているのは東大寺の苦難の歴史を伺わせますが、ともかくは精緻に描かれた図像に目を奪われました。

東大寺再建 ~重源上人と鎌倉仏

1180年、平家の放った炎にのまれ、大仏は大きな被害を受けますが、その再建に尽力したのが頼朝の支援を得た僧重源でした。最終の第4章ではこの時代の仏像が数点ほど展示されています。


重源上人坐像 鎌倉時代 東大寺蔵

鎌倉仏ならではの迫真性に満ちた「重源上人坐像」には思わず後退りしてしまうような凄みがあります。ぐっと頬を落とし、苦渋とも達観ともとれるような複雑な表情からは、中国に3度も渡り、その経験をもとに大仏再建につとめた彼の困難な人生が表されているように思えてなりません。


阿弥陀如来立像 快慶作 鎌倉時代 東大寺蔵

またこのセクションでは快慶作による二体の仏像も見どころの一つです。とりわけ重源の臨終仏とも言われる「阿弥陀如来立像」の非常に端正な造形美にはひかれました。水の波紋のような着衣の表現などはかなり流麗です。


五劫思惟阿弥陀如来坐像 鎌倉時代 五劫院蔵

最後の一点は三井記念美術館の「奈良の古寺と仏像」でも類例の作品が出ていた「五劫思惟阿弥陀如来坐像」でした。そのコミカルな様子は何度見ても和んでしまいます。


VRシアター「大仏の世界」

展示中盤のバーチャルリアリティー映像「大仏の世界」は約12分ほどあります。東博ではお馴染みの資料館のVRシアターからさらにスケールアップし、天井に至るまでの大型スクリーンで大仏を再現、また華厳経の世界観を紹介していました。


VRシアター「大仏の世界」

ここは最初から最後までじっくり見ておきたいところです。大仏は実写並の迫力がありました。


法華堂屋根瓦 奈良時代 東大寺蔵 他

展示冒頭部分で紹介されているのは瓦類です。こうしたやや地味な考古品が続くのも平成館ではあまり例がないかもしれませんが、ここも開眼へと至るドラマチックな構成の前史として見ておくべきなのではないでしょうか。

なおチラシにも記載がありますが、後期の11月2日より正倉院の宝物が出品されます。

期間限定 光明皇后と正倉院宝物:2010年11月2日(火)~21日(日) 出品リスト

第3章「天平の至宝」に展示されている作品が光背を除き、全て入れ替わります。(各20点ずつ)


縹縷(開眼縷) 奈良時代 正倉院宝物(11月2日~21日展示)

そちらを目当てにという方も多いかもしれませんが、私としても開眼会の際に聖武天皇が握っていたという縄の「開眼縷」を一度見てみたかったので、ここは是非とも再訪したいと思います。


第2章「大仏造立」展示室

会期中毎週金曜は延長開館日(20時まで)ですが、その夜間時、以下の日程にて光のイベント「なら燈花会」と「なら瑠璃会」が開催されます。奈良の雰囲気をここ上野で味わえる絶好の機会ではないでしょうか。こちらも何とか参加したいものです。

「なら燈花会」 10月22日(金) 18:00~20:00
「なら瑠璃会」 11月12日(金) 18:00~20:00
※ 天候により中止になる場合あり。場所はともに平成館前庭。



金鈿荘大刀 奈良時代 東大寺蔵

薬師寺展、阿修羅展と続いた東博の奈良三部作のフィナーレを飾る展覧会です。空間を埋め尽くすほどの圧倒的な数の作品があるわけではありませんが、さすがに展示の作り込みは壮観でした。


西大門勅額 奈良時代 東大寺蔵

「西大門勅額」を観上げながら聖武天皇のこのプロジェクトにかけた思いを想像しました。 ここから回廊を通じて燈籠と伎楽面へと至る展開は実にドラマチックです。


第1章「東大寺のはじまり」展示室

12月12日まで開催されています。

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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