都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ドミニク・ぺロー 都市というランドスケープ」 東京オペラシティアートギャラリー
東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿3-20-2)
「ドミニク・ぺロー 都市というランドスケープ」
10/23-12/26

東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「ドミニク・ぺロー 都市というランドスケープ」へ行ってきました。
建築家ドミニク・ぺローについては同展公式WEBサイトをご参照下さい。
ドミニク・ペロー Profile
主にヨーロッパ各地で公共建築などを手掛けている他、最近ではつい先日竣工したばかりの大阪富国生命ビルの設計を担当したそうです。梅田駅前ということでご存知の方も多いのではないでしょうか。
さて私が見に行った当日、建築家で、以前DPA(ドミニク・ペロー事務所)に在籍された前田茂樹氏のギャラリートークがありました。以下にその模様をまとめてみます。
ドミニク・ぺローの建築観について
都市と建築の双方に関わりを持つ建築家。
都市に建築がどういう形で向かいあうべきなのかという視点が重要。
アーバンランドスケープ(造園):フランスの庭園は自然であり人工でもある。人工である建築も同じように自然に関わりを持たねばならない。その両者の集合体としてのランドスケープを実現したい。
展示について
ポンピドゥーセンターからの巡回展。会場毎に内容は若干変化しているが、大きなフラットな空間でプロジェクトを見せることは共通している。
展示は主に3つに分かれている。1つ目に実際に完成した建物の風景を提示し、2つ目にそのスタディを、また3つ目に最も初めの段階で用いられるぺロー自身のスケッチを紹介している。スケッチから建物へではなく、その逆の順番になっていることに注意して欲しい。
展示1「PROJECTION」~各建築を映像から考える

テニス・センター、マドリッド 2009
オリンピック・テニス・センター、マドリッド 2009
スポーツ公園の中で昨年実現したプロジェクト。メタルメッシュを外壁に使っている。
まず池をつくって正方形の箱を置き、その屋根を開閉させた。
風景の中へ溶け込むような設計であり、イベントがない時などはそのまま通り抜けられるような建物をイメージした。

梨花女子大学、ソウル 2008
梨花女子大学キャンパス・センター、ソウル 2008
韓国で最も有名な女子大。広大なキャンパスの中核をつくる。
ぺローは始めにセンターを都市の延長であれば良いと考えていた。そのため外の大通りの賑わいを取り入れる工夫がなされている。
元々のくぼ地の地形をそのまま利用して地下空間を大胆に用いた。
地上から空気を取り入れる管を地下に長くのばしている。それによって冬は空気が温められ、また夏は冷されている。

自転車競技場、ベルリン 1999
自転車競技場/オリンピック・プール、ベルリン 1999
旧東ベルリンの荒廃した地域のプロジェクト。五輪誘致のためのスポーツ施設をつくり、周囲を再開発した。
建物と地域を一体化させて公園にすることを提案。5~6階建ての集合住宅が多いなかで、市民に開かれた広場を作った。
競技場やプールなどは普通に設計するとあまりにも巨大な容積になってしまうが、そうした周囲を分断するような建物はつくりたくない。
リンゴの木を5000本植樹して出来た林を抜け、池のような面を降りていくと競技場に辿り着くようなアプローチにした。(地下を利用している。)

フランス国立図書館、パリ 1995
フランス国立図書館、パリ 1995
パリ郊外の13区でのプロジェクト。荒れた場所を再開発で蘇らせる。
図書館という大きな容積が必要な建物だが、地下に地上の4倍の空間をつくることで、建物としてなるべく大きくならないように配慮した。建物で地域を分断したくない。
パリには歴史的に広場が多いが13区には少ない。空間を地上部の4つの建物で囲むことで広場のイメージを呼び起こそうとした。
中の庭にはノルマンディーから移した木が大量に植えられている。ただしこの庭には入れない。
インテリアもペローがデザイン。天井のメッシュもメンテナンスがなるべく少ないような素材にした。
ぺローにとってのメタルメッシュとは何か
素材と素材がシームレスにつながるための重要なアイテム。
最初、フランスの国立図書館で天井にナイロン地を使ったことがあったが、不燃の関係でなかなか他では利用出来ない。そのかわりのものとしてメタルメッシュに行き着いた。
ある程度の透明性が確保され色も様々に展開出来る。
半透明であることから建物の内と外が明確に区別されず、パブリックとプライベートな空間を融合出来るようにした。
メッシュによって建築が都市へ広がっていくようなイメージをつくる。
展示2 「TABLE」~5つのテーブル毎にテーマを設けて各プロジェクトを紹介する
1 都市の地形~タワープロジェクト~大阪富国生命ビル

大阪富国生命ビル 、大阪 2010
大阪駅前の高層オフィスビルの建て替え計画。2006年にコンペがあった。
大阪の駅前は決して明確な都市設計に基づいて構築されているわけではないが、地下の発達したネットワークに大きな特徴がある。人の流れの大半は地下街を経由している。
ビルから地下に自然光が差し込むような工夫を凝らした。=地下を非地下化
この手のビルは容積率の関係で、どうしても分厚い低層部と長細い高層部を組み合わせた墓石のような形になりがちだが、ぺローは低層から高層へスムーズに形がつながるように工夫した。
下から見上げると幹から徐々に細くなる樹木のような印象を受けるかもしれない。外壁の構造や色にも木のイメージを取り入れた。
3 場の発見~都市の公共空間を皆で使おうとする発想~マリインスキー劇場(サンクトペテルブルグ)
古い建物を残してその真横に新劇場を建てるプロジェクト。
ペローはオペラ座はブルジョワ的で閉鎖的なものだと批判し、それを打破するために街や人々へ開かれた建物をつくることを考えた。
建物の周囲にもう一つ、皮か幕のような構造物で全体を覆っている。建物と外部との間に中間領域をつくった。
ホワイエは金色のメッシュで覆い、内部と外部の双方から見通すことが出来る。
建物自体の形も地形的な要素を取り込む。大きなボリュームの上へ登っていけるようなイメージ。場と建築を融合させた。
5 地形の変容~建物を地中へ埋め込んでいくプロジェクト~ドブリー博物館(ナント)

ドブリー博物館
歴史的に古い地域にある博物館。建物は保存して地下空間を開発する。
ボリュームを沈めて存在を消す試み。そもそも近代建築は壁を地上にたてることからはじまるが、ペローは逆に地面と一体化させることで、これまでの建築が考慮してこなかった地形との関わりを追求した。=近代建築に対する批判精神
地下に埋めることで建物の新たな可能性を考える。
展示3 ペローのスケッチ~アイデアの源泉
ペローは敷地を見ないでそのままデザインをはじめることがある。まずは自身の持っているイメージを大切にしている。
スタッフのレポートからスケッチを描くこともある。またそのまま建物の模型をつくることもある。
おおまかなランドスケープを見取ったスケッチが多い。
簡略な平面図に建物とその周囲における人の流れを書き込んでいる。建物がどう街と関わり、また人の流れを生み出すかということに関心をもっている。
以上です。質疑応答を含み、約2時間弱にもわたってトークが続きました。なおギャラリー・トークは会期中もう一回開催されます。とても丁寧な説明で、建築の知識に乏しい私でも興味を持って聞くことが出来ました。そちらに参加されてみるのも良いのではないでしょうか。
ウィークエンド・ギャラリートーク 前田茂樹[建築家、DPA元チーフアーキテクト]
日時:11月7日(日)14:00~
会場:東京オペラシティアートギャラリー
展覧会は12月16日まで開催されています。
「ドミニク・ぺロー 都市というランドスケープ」
10/23-12/26

東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「ドミニク・ぺロー 都市というランドスケープ」へ行ってきました。
建築家ドミニク・ぺローについては同展公式WEBサイトをご参照下さい。
ドミニク・ペロー Profile
主にヨーロッパ各地で公共建築などを手掛けている他、最近ではつい先日竣工したばかりの大阪富国生命ビルの設計を担当したそうです。梅田駅前ということでご存知の方も多いのではないでしょうか。
さて私が見に行った当日、建築家で、以前DPA(ドミニク・ペロー事務所)に在籍された前田茂樹氏のギャラリートークがありました。以下にその模様をまとめてみます。
ドミニク・ぺローの建築観について
都市と建築の双方に関わりを持つ建築家。
都市に建築がどういう形で向かいあうべきなのかという視点が重要。
アーバンランドスケープ(造園):フランスの庭園は自然であり人工でもある。人工である建築も同じように自然に関わりを持たねばならない。その両者の集合体としてのランドスケープを実現したい。
展示について
ポンピドゥーセンターからの巡回展。会場毎に内容は若干変化しているが、大きなフラットな空間でプロジェクトを見せることは共通している。
展示は主に3つに分かれている。1つ目に実際に完成した建物の風景を提示し、2つ目にそのスタディを、また3つ目に最も初めの段階で用いられるぺロー自身のスケッチを紹介している。スケッチから建物へではなく、その逆の順番になっていることに注意して欲しい。
展示1「PROJECTION」~各建築を映像から考える

テニス・センター、マドリッド 2009
オリンピック・テニス・センター、マドリッド 2009
スポーツ公園の中で昨年実現したプロジェクト。メタルメッシュを外壁に使っている。
まず池をつくって正方形の箱を置き、その屋根を開閉させた。
風景の中へ溶け込むような設計であり、イベントがない時などはそのまま通り抜けられるような建物をイメージした。

梨花女子大学、ソウル 2008
梨花女子大学キャンパス・センター、ソウル 2008
韓国で最も有名な女子大。広大なキャンパスの中核をつくる。
ぺローは始めにセンターを都市の延長であれば良いと考えていた。そのため外の大通りの賑わいを取り入れる工夫がなされている。
元々のくぼ地の地形をそのまま利用して地下空間を大胆に用いた。
地上から空気を取り入れる管を地下に長くのばしている。それによって冬は空気が温められ、また夏は冷されている。

自転車競技場、ベルリン 1999
自転車競技場/オリンピック・プール、ベルリン 1999
旧東ベルリンの荒廃した地域のプロジェクト。五輪誘致のためのスポーツ施設をつくり、周囲を再開発した。
建物と地域を一体化させて公園にすることを提案。5~6階建ての集合住宅が多いなかで、市民に開かれた広場を作った。
競技場やプールなどは普通に設計するとあまりにも巨大な容積になってしまうが、そうした周囲を分断するような建物はつくりたくない。
リンゴの木を5000本植樹して出来た林を抜け、池のような面を降りていくと競技場に辿り着くようなアプローチにした。(地下を利用している。)

フランス国立図書館、パリ 1995
フランス国立図書館、パリ 1995
パリ郊外の13区でのプロジェクト。荒れた場所を再開発で蘇らせる。
図書館という大きな容積が必要な建物だが、地下に地上の4倍の空間をつくることで、建物としてなるべく大きくならないように配慮した。建物で地域を分断したくない。
パリには歴史的に広場が多いが13区には少ない。空間を地上部の4つの建物で囲むことで広場のイメージを呼び起こそうとした。
中の庭にはノルマンディーから移した木が大量に植えられている。ただしこの庭には入れない。
インテリアもペローがデザイン。天井のメッシュもメンテナンスがなるべく少ないような素材にした。
ぺローにとってのメタルメッシュとは何か
素材と素材がシームレスにつながるための重要なアイテム。
最初、フランスの国立図書館で天井にナイロン地を使ったことがあったが、不燃の関係でなかなか他では利用出来ない。そのかわりのものとしてメタルメッシュに行き着いた。
ある程度の透明性が確保され色も様々に展開出来る。
半透明であることから建物の内と外が明確に区別されず、パブリックとプライベートな空間を融合出来るようにした。
メッシュによって建築が都市へ広がっていくようなイメージをつくる。
展示2 「TABLE」~5つのテーブル毎にテーマを設けて各プロジェクトを紹介する
1 都市の地形~タワープロジェクト~大阪富国生命ビル

大阪富国生命ビル 、大阪 2010
大阪駅前の高層オフィスビルの建て替え計画。2006年にコンペがあった。
大阪の駅前は決して明確な都市設計に基づいて構築されているわけではないが、地下の発達したネットワークに大きな特徴がある。人の流れの大半は地下街を経由している。
ビルから地下に自然光が差し込むような工夫を凝らした。=地下を非地下化
この手のビルは容積率の関係で、どうしても分厚い低層部と長細い高層部を組み合わせた墓石のような形になりがちだが、ぺローは低層から高層へスムーズに形がつながるように工夫した。
下から見上げると幹から徐々に細くなる樹木のような印象を受けるかもしれない。外壁の構造や色にも木のイメージを取り入れた。
3 場の発見~都市の公共空間を皆で使おうとする発想~マリインスキー劇場(サンクトペテルブルグ)
古い建物を残してその真横に新劇場を建てるプロジェクト。
ペローはオペラ座はブルジョワ的で閉鎖的なものだと批判し、それを打破するために街や人々へ開かれた建物をつくることを考えた。
建物の周囲にもう一つ、皮か幕のような構造物で全体を覆っている。建物と外部との間に中間領域をつくった。
ホワイエは金色のメッシュで覆い、内部と外部の双方から見通すことが出来る。
建物自体の形も地形的な要素を取り込む。大きなボリュームの上へ登っていけるようなイメージ。場と建築を融合させた。
5 地形の変容~建物を地中へ埋め込んでいくプロジェクト~ドブリー博物館(ナント)

ドブリー博物館
歴史的に古い地域にある博物館。建物は保存して地下空間を開発する。
ボリュームを沈めて存在を消す試み。そもそも近代建築は壁を地上にたてることからはじまるが、ペローは逆に地面と一体化させることで、これまでの建築が考慮してこなかった地形との関わりを追求した。=近代建築に対する批判精神
地下に埋めることで建物の新たな可能性を考える。
展示3 ペローのスケッチ~アイデアの源泉
ペローは敷地を見ないでそのままデザインをはじめることがある。まずは自身の持っているイメージを大切にしている。
スタッフのレポートからスケッチを描くこともある。またそのまま建物の模型をつくることもある。
おおまかなランドスケープを見取ったスケッチが多い。
簡略な平面図に建物とその周囲における人の流れを書き込んでいる。建物がどう街と関わり、また人の流れを生み出すかということに関心をもっている。
以上です。質疑応答を含み、約2時間弱にもわたってトークが続きました。なおギャラリー・トークは会期中もう一回開催されます。とても丁寧な説明で、建築の知識に乏しい私でも興味を持って聞くことが出来ました。そちらに参加されてみるのも良いのではないでしょうか。
ウィークエンド・ギャラリートーク 前田茂樹[建築家、DPA元チーフアーキテクト]
日時:11月7日(日)14:00~
会場:東京オペラシティアートギャラリー
展覧会は12月16日まで開催されています。
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