都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「新日本フィルハーモニー交響楽団 2011/2012シーズン記者発表会」
新日本フィルハーモニー交響楽団2011/2012シーズン記者発表会に参加してきました。
通常、記者発表はプレス関係者のみが対象となりますが、同オーケストラでは事前にブロガーなどを公募し、一般もモニターとして参加することが出来ます。今回、そちらに申込み、この日の発表会にお邪魔させていただました。
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会場のすみだトリフォニーホール・大ホール。
なお発表会に先立ち、ブリュッヘンによる進行中のベートーヴェンプロジェクトの公開リハーサルも拝見しましたが、そちらは別途記事にするとして、本エントリでは記者発表の部分をまとめてみます。 (敬省略)
記者発表会登壇者
新日本フィルハーモニー交響楽団
事業部長:安江正也
ソロコンサートマスター:崔文殊
指揮者:フランス・ブリュッヘン(通訳:久野理恵子)
音楽監督:クリスティアン・アルミンク(通訳:藤原順子)
専務理事:横山邦雄
すみだトリフォニーホール
常務理事:織田雄二郎
ゼネラルプロデューサー:西田透
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記者会見ステージ。右から上記の登壇者の順に並びました。
冒頭、音楽監督のクリスティアン・アルミンクによる挨拶があった後、事業部長の安江正也より同プロジェクト実現についての簡単な説明がありました。
新日本フィルハーモニー交響楽団事業部長:安江正也
ブリュッヘンとは2年前にハイドンのプロジェクトでオーケストラとの共演があった。その時もブリュッヘンから申し出があって企画されたわけだが、今回のベートーヴェンもブリュッヘンから直接オーケストラに話があって実現した。事務方としては直接ブリュッヘンからオケに話がいったと聞いて驚いたが、逆に両者がそこまで親密な関係にあったのかと思うと嬉しかった。
引き続き音楽監督のフランス・ブリュッヘンが今回のプロジェクトについてコメントしました。
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音楽について語るフランス・ブリュッヘン。
新日本フィルハーモニー交響楽団指揮者:フランス・ブリュッヘン
今回のプロジェクトではベートーヴェンの交響曲を1日目に1、2、3番、2日目に4と5番、3日目に6と7番、4日目に8と9番のように番号順に演奏する。その一方でリハーサルは9番から始めて1番にさかのぼる形をとる。つまり演奏会直前に1番のリハーサルを行い、その後すぐに本番で同じ曲を演奏するわけだ。このチクルスの有り様は自分がハイドンをやっていた時に思いついた。
ベートーヴェンはハイドンの後継者である。実際にベートーヴェンはハイドンにレッスンを受けていた記録もあり、彼がハイドンを尊敬していたのは間違いないだろう。
興味深いのはベートーヴェンが第1番を書いたのは30歳になってからということだ。それは何故かと言うとハイドンが恐かったからに他ならない。つまりハイドンは交響曲の父と呼ばれていて、ベートーヴェンはその後に連なる音楽を書くことに躊躇した。これはブラームスの第1番の完成に時間がかかったことにも共通する。ベートーヴェンの音楽の存在を畏怖していたブラームスはかなり時間をおいてから交響曲の制作に着手した。
ベートーヴェンが第1番を書いたのは1800年、9番に辿り着いたのは1824年である。彼の交響曲には興味深いパターンがある。第1番はハイドンの音楽を発展させた大きな一歩であり2番はやや後退、3番でまた飛躍し4番は後退、そして5番でさらに発展し6で後ろ向きに、7は前進、8は後退、最後の9番で偉大な前進を遂げるという構図だ。
ハイドンとベートーヴェンには共通点がある。それは音楽を作曲する上で音楽以外の部分からインスピレーションを得ているということだ。ベートーヴェンにはシェイクスピアやラテン語の蔵書があった。そして決して彼自身が語ったわけではないものの、各交響曲にはそれぞれ音楽の背景の本質的な何かが隠されている。
1番と2番はハイドンの要素、3番はナポレオン的ヒロイズム、5番は高らかな自由への希望、6番は自然への共感、7番は戦いのシンフォニーでナポレオンの戦争で犠牲となった多くの農民への哀悼の念もこめられている。そして8番は1楽章のゲーテの引用や2楽章のメトロノームなど様々な要素が見られ、9番はまさにシラーを通しての人類讃歌が述べられている。但し4番は不明だ。(笑)
続いて安江氏より今回のプロジェクトはオーケストラ単独ではなくホールと共同の企画であることが紹介され、ホール側とオケ側の双方の事務方からそれぞれプロジェクトに関してのコメントがありました。
すみだトリフォニーホール常務理事:織田雄二郎
本ホールは開館時から新日本フィルとフランチャイズ契約を結んでいる。その特性を活かし、より高い芸術性を追及するプロジェクトであればと考えている。今回も4日の本公演とそのリハーサルの日程も全て確保した。そういう姿勢も見ていただきたい。
新日本フィルハーモニー交響楽団専務理事:横山邦雄
来年は新日フィルがホールとフランチャイズ契約を結んでから15周年を迎える。しかもホール界隈ではスカイツリーが完成するなど華やいだ一年になることも予想される。
本公演とリハーサルを同じ施設で行うことはオーケストラにとって重要である。今回のようなプロジェクトもホールとの信頼関係がないとなかなか実現しない。今でこそホールとオーケストラがフランチャイズの関係にあることは珍しくないかもしれないが、我々はその先取りをいっていると自負している。
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ホール内にディスプレイされた舟越桂の「冬のソナタ」。
ここで一端、このプロジェクトに関する質疑応答が行われ、一部ベートーヴェンの音楽に関する細かな議論がなされました。
質疑応答
Q ブリュッヘンに聞きたい。今日のリハーサルでは9番よりも8番の方が小さな編成だったようだが、曲毎に規模を変えることについてはどのような考えに基づいているのか。例えば当時の記録によればベートーヴェンの交響曲のうち、9番を除けば4番が最小の編成、そして8番が最大だとされている。
A(ブリュッヘン) ベートーヴェンの初演時の情報は残っていて、オーケストラの編成についても理解しているが、その上下は当時の演奏の際の予算やホールの特性で変わった面が大きい。
8番までの編成を平均すると、例えばバイオリンがそれぞれ10と10、チェロ4、コントラバス8名などということがわかっている。
そして何故コントラバスが8名もいたのかというと、しっかりした低音を出すことが重要なのと、当時のオーケストラがアマチュア主体でありまた楽器も未成熟だったため、大きな音を出すには物理的にたくさんの奏者がいなくてはならないからだった。もちろんオーケストラの要はティンパニとコントラバスであるのは言うまでもない。
Q 崔に聞きたい。ブリュッヘンとの共演を通して様々な知見を受けたと思うが、それは具体的には何か。またそれを新日本フィルだけでなく、国内の他のオーケストラとも共有出来ないだろうか。
A(崔) 最初にブリュッヘンと共演したのはシューマンの2番。それはもう生涯忘れられない刺激的な演奏だった。 元々ブリュッヘンなファンで、彼のリコーダーの演奏も何度も聞いたが、今回改めて共演出来ることの喜びを味わうとともに、その音楽性を一層吸収したいと思っている。
具体的にはフレージングやアーティキュレーションの問題、そしてベートーヴェンの音楽では何かと問題になる速度表記に対して、ブリュッヘンの回答は常に明確だった。
ブリュッヘンと共演すると何回弾いた曲でも常に新しいものが得られる。また他のオーケストラとの関係についてだが、自分は大阪でも活動しているのでそこでメンバーに色々経験を話したりしている。もっと具体的な交流となると難しいかもしれないが…。
ここでブリュッヘンから彼は最高の演奏家だと拍手を求める発言があり、また逆に崔よってブリュッヘンに次のプロジェクトを促す場面がありました。そこでブリュッヘンは「ベートーヴェンプロジェクトは前回のハイドンの時に思い付いたが、今次を考えるには年を取りすぎている。」とした上で、「シューベルトは好き。」というの旨の発言で会場をわかせました。
そして引き続き最近の新日本フィルの音の変化などについての質問がありました。
質疑応答
Q ブリュッヘンのハイドンプロジェクトで新日本フィルの音が変わったという印象を受けている。それはアルミンクが築いた基礎の上にブリュッヘンが何かを入れたということなのか。 今回2年ぶりの共演だが、その間に双方で変わったことがあるかを聞きたい。
A(ブリュッヘン) 新日本フィルは素晴らしいオーケストラで記憶力がいい。2年という時は流れたが、その間はアルミンクがいたので何ら心配はしていない。今回も期待している。いつも共演は嬉しい。
A(崔) 次はシューベルトも良いね。(笑) さて共演に関しては、回を重ねることで自分たちの音の引き出しが増えている印象がある。よい部分は変わらないようにし、常に例え0.5ミリでも更なる前進を心掛けたい。
さてここでリハーサルから休憩を挟んで出演し続けたブリュッヘンは退席しました。なおベートーヴェンプロジェクトのスケジュールは以下の通りです。
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フランス・ブリュッヘン・プロデュース「ベートーヴェン・プロジェクト」
第1回 2月8日(火) 交響曲第1番・第2番・第3番
第2回 2月11日(金) 交響曲第4番・第5番
第3回 2月16日(水) 交響曲第6番・第7番
第4回 2月19日(土) 交響曲第8番・第9番
また現在、ブリュッヘンとオーケストラによるリハーサルが進行中ですが、その様子は同団のツイッターアカウントなどでも広報されています。あわせてご覧ください。
@newjapanphil
続いてアルミンクが次の2011/2012シーズンについての意気込みを語りました。
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次シーズンについて語るアルミンク。
新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督:クリスティアン・アルミンク
来シーズンの主役はオーケストラ。新日本フィルのメモリアルイヤーでもあるので、オーケストラにスポットを当てたい。
客演指揮者はお馴染みの顔ぶれでハーディングも数回来日する予定だ。
また前日初めて共演したメッツマッハーの他、ジャン=クリストフ・スピノジも再演する。そして初登場は北欧のトーマス・ダウスゴー。彼は私が招きたいと思っていた指揮者の一人だ。
そして公演のハイライトとしていくつかのプログラムについて、同じくアルミンクより簡単なコメントがありました。
新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督:クリスティアン・アルミンク
これまでマーラーの10曲の交響曲を取り上げてきたので、それと対になる形でのブルックナーを演奏したい。
2年前もシュミットを演奏、さらには録音を行ったが、今回は交響曲第2番を取り上げる。
マーラーの「嘆きの歌」を演奏する。この曲は彼が20歳の頃に書いた作品だが、後の交響曲のエッセンスが全てつまっている。あまり上演頻度が高くないのはともかく演奏が難しいから。オケも合唱も大編成でかつバンダも必要。それにソプラノやアルト以外にも、ボーイアルトなどの少年の歌い手が必要。しっかり取り組むつもりだ。
メッツマッハーの振る10月のサントリー公演は大変興味深い。知的なプログラムで政治的な色合いの濃い作品を並べたのはいかにも彼らしいではないか。レオノーレでは自由解放を、アイヴズの「ニューイングランドの三つの場所」ではアメリカにとっての理想などを読み取り、最後に言うまでもなく政治的な作品であるショスタコーヴィチの第5番を取り上げている。
ティエリー・エスケシュの「ヴァイオリン協奏曲」を日本初演する。彼はフランス屈指のオルガニストとして知られているが、作曲家としての知名度は低い。この曲も極めて難しいが、オーケストラに色を与えることが出来る。
ここで共演予定のメッツマッハーのコメントが映像で紹介された後、最後の質疑応答が簡単に行われました。
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ビデオ出演するインゴ・メッツマッハー。
そこで印象深かったのはハーディングがメッツマッハーと長い関係を築きたいと願っていることや、事務局として経営環境が厳しい中、アルミンクにもそうした状況を説明してこうしたプログラムを考えていることなどでした。
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以上です。全110分程度という長丁場でしたが、半分司会をつとめながらも質問に丁寧にこたえるアルミンクはもちろん、時に熱い口調で語るブリュッヘンの真摯な音楽に対する姿勢などがとても印象的でした。
なおこの発表会の詳細な内容については既に同オーケストラのWEBサイトでも公開されています。
記者発表会リポート(1):Beethoven Project
記者発表会リポート(2):2011-2012シーズン定期演奏会
また新シリーズのプログラムについてもPDFにて告知されています。
2011/2012シーズン詳細決定!
最後になりましたが、このような貴重な機会を与えて下さった新日本フィルハーモニー交響楽団の方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。
通常、記者発表はプレス関係者のみが対象となりますが、同オーケストラでは事前にブロガーなどを公募し、一般もモニターとして参加することが出来ます。今回、そちらに申込み、この日の発表会にお邪魔させていただました。
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会場のすみだトリフォニーホール・大ホール。
なお発表会に先立ち、ブリュッヘンによる進行中のベートーヴェンプロジェクトの公開リハーサルも拝見しましたが、そちらは別途記事にするとして、本エントリでは記者発表の部分をまとめてみます。 (敬省略)
記者発表会登壇者
新日本フィルハーモニー交響楽団
事業部長:安江正也
ソロコンサートマスター:崔文殊
指揮者:フランス・ブリュッヘン(通訳:久野理恵子)
音楽監督:クリスティアン・アルミンク(通訳:藤原順子)
専務理事:横山邦雄
すみだトリフォニーホール
常務理事:織田雄二郎
ゼネラルプロデューサー:西田透
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記者会見ステージ。右から上記の登壇者の順に並びました。
冒頭、音楽監督のクリスティアン・アルミンクによる挨拶があった後、事業部長の安江正也より同プロジェクト実現についての簡単な説明がありました。
新日本フィルハーモニー交響楽団事業部長:安江正也
ブリュッヘンとは2年前にハイドンのプロジェクトでオーケストラとの共演があった。その時もブリュッヘンから申し出があって企画されたわけだが、今回のベートーヴェンもブリュッヘンから直接オーケストラに話があって実現した。事務方としては直接ブリュッヘンからオケに話がいったと聞いて驚いたが、逆に両者がそこまで親密な関係にあったのかと思うと嬉しかった。
引き続き音楽監督のフランス・ブリュッヘンが今回のプロジェクトについてコメントしました。
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音楽について語るフランス・ブリュッヘン。
新日本フィルハーモニー交響楽団指揮者:フランス・ブリュッヘン
今回のプロジェクトではベートーヴェンの交響曲を1日目に1、2、3番、2日目に4と5番、3日目に6と7番、4日目に8と9番のように番号順に演奏する。その一方でリハーサルは9番から始めて1番にさかのぼる形をとる。つまり演奏会直前に1番のリハーサルを行い、その後すぐに本番で同じ曲を演奏するわけだ。このチクルスの有り様は自分がハイドンをやっていた時に思いついた。
ベートーヴェンはハイドンの後継者である。実際にベートーヴェンはハイドンにレッスンを受けていた記録もあり、彼がハイドンを尊敬していたのは間違いないだろう。
興味深いのはベートーヴェンが第1番を書いたのは30歳になってからということだ。それは何故かと言うとハイドンが恐かったからに他ならない。つまりハイドンは交響曲の父と呼ばれていて、ベートーヴェンはその後に連なる音楽を書くことに躊躇した。これはブラームスの第1番の完成に時間がかかったことにも共通する。ベートーヴェンの音楽の存在を畏怖していたブラームスはかなり時間をおいてから交響曲の制作に着手した。
ベートーヴェンが第1番を書いたのは1800年、9番に辿り着いたのは1824年である。彼の交響曲には興味深いパターンがある。第1番はハイドンの音楽を発展させた大きな一歩であり2番はやや後退、3番でまた飛躍し4番は後退、そして5番でさらに発展し6で後ろ向きに、7は前進、8は後退、最後の9番で偉大な前進を遂げるという構図だ。
ハイドンとベートーヴェンには共通点がある。それは音楽を作曲する上で音楽以外の部分からインスピレーションを得ているということだ。ベートーヴェンにはシェイクスピアやラテン語の蔵書があった。そして決して彼自身が語ったわけではないものの、各交響曲にはそれぞれ音楽の背景の本質的な何かが隠されている。
1番と2番はハイドンの要素、3番はナポレオン的ヒロイズム、5番は高らかな自由への希望、6番は自然への共感、7番は戦いのシンフォニーでナポレオンの戦争で犠牲となった多くの農民への哀悼の念もこめられている。そして8番は1楽章のゲーテの引用や2楽章のメトロノームなど様々な要素が見られ、9番はまさにシラーを通しての人類讃歌が述べられている。但し4番は不明だ。(笑)
続いて安江氏より今回のプロジェクトはオーケストラ単独ではなくホールと共同の企画であることが紹介され、ホール側とオケ側の双方の事務方からそれぞれプロジェクトに関してのコメントがありました。
すみだトリフォニーホール常務理事:織田雄二郎
本ホールは開館時から新日本フィルとフランチャイズ契約を結んでいる。その特性を活かし、より高い芸術性を追及するプロジェクトであればと考えている。今回も4日の本公演とそのリハーサルの日程も全て確保した。そういう姿勢も見ていただきたい。
新日本フィルハーモニー交響楽団専務理事:横山邦雄
来年は新日フィルがホールとフランチャイズ契約を結んでから15周年を迎える。しかもホール界隈ではスカイツリーが完成するなど華やいだ一年になることも予想される。
本公演とリハーサルを同じ施設で行うことはオーケストラにとって重要である。今回のようなプロジェクトもホールとの信頼関係がないとなかなか実現しない。今でこそホールとオーケストラがフランチャイズの関係にあることは珍しくないかもしれないが、我々はその先取りをいっていると自負している。
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ホール内にディスプレイされた舟越桂の「冬のソナタ」。
ここで一端、このプロジェクトに関する質疑応答が行われ、一部ベートーヴェンの音楽に関する細かな議論がなされました。
質疑応答
Q ブリュッヘンに聞きたい。今日のリハーサルでは9番よりも8番の方が小さな編成だったようだが、曲毎に規模を変えることについてはどのような考えに基づいているのか。例えば当時の記録によればベートーヴェンの交響曲のうち、9番を除けば4番が最小の編成、そして8番が最大だとされている。
A(ブリュッヘン) ベートーヴェンの初演時の情報は残っていて、オーケストラの編成についても理解しているが、その上下は当時の演奏の際の予算やホールの特性で変わった面が大きい。
8番までの編成を平均すると、例えばバイオリンがそれぞれ10と10、チェロ4、コントラバス8名などということがわかっている。
そして何故コントラバスが8名もいたのかというと、しっかりした低音を出すことが重要なのと、当時のオーケストラがアマチュア主体でありまた楽器も未成熟だったため、大きな音を出すには物理的にたくさんの奏者がいなくてはならないからだった。もちろんオーケストラの要はティンパニとコントラバスであるのは言うまでもない。
Q 崔に聞きたい。ブリュッヘンとの共演を通して様々な知見を受けたと思うが、それは具体的には何か。またそれを新日本フィルだけでなく、国内の他のオーケストラとも共有出来ないだろうか。
A(崔) 最初にブリュッヘンと共演したのはシューマンの2番。それはもう生涯忘れられない刺激的な演奏だった。 元々ブリュッヘンなファンで、彼のリコーダーの演奏も何度も聞いたが、今回改めて共演出来ることの喜びを味わうとともに、その音楽性を一層吸収したいと思っている。
具体的にはフレージングやアーティキュレーションの問題、そしてベートーヴェンの音楽では何かと問題になる速度表記に対して、ブリュッヘンの回答は常に明確だった。
ブリュッヘンと共演すると何回弾いた曲でも常に新しいものが得られる。また他のオーケストラとの関係についてだが、自分は大阪でも活動しているのでそこでメンバーに色々経験を話したりしている。もっと具体的な交流となると難しいかもしれないが…。
ここでブリュッヘンから彼は最高の演奏家だと拍手を求める発言があり、また逆に崔よってブリュッヘンに次のプロジェクトを促す場面がありました。そこでブリュッヘンは「ベートーヴェンプロジェクトは前回のハイドンの時に思い付いたが、今次を考えるには年を取りすぎている。」とした上で、「シューベルトは好き。」というの旨の発言で会場をわかせました。
そして引き続き最近の新日本フィルの音の変化などについての質問がありました。
質疑応答
Q ブリュッヘンのハイドンプロジェクトで新日本フィルの音が変わったという印象を受けている。それはアルミンクが築いた基礎の上にブリュッヘンが何かを入れたということなのか。 今回2年ぶりの共演だが、その間に双方で変わったことがあるかを聞きたい。
A(ブリュッヘン) 新日本フィルは素晴らしいオーケストラで記憶力がいい。2年という時は流れたが、その間はアルミンクがいたので何ら心配はしていない。今回も期待している。いつも共演は嬉しい。
A(崔) 次はシューベルトも良いね。(笑) さて共演に関しては、回を重ねることで自分たちの音の引き出しが増えている印象がある。よい部分は変わらないようにし、常に例え0.5ミリでも更なる前進を心掛けたい。
さてここでリハーサルから休憩を挟んで出演し続けたブリュッヘンは退席しました。なおベートーヴェンプロジェクトのスケジュールは以下の通りです。
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フランス・ブリュッヘン・プロデュース「ベートーヴェン・プロジェクト」
第1回 2月8日(火) 交響曲第1番・第2番・第3番
第2回 2月11日(金) 交響曲第4番・第5番
第3回 2月16日(水) 交響曲第6番・第7番
第4回 2月19日(土) 交響曲第8番・第9番
また現在、ブリュッヘンとオーケストラによるリハーサルが進行中ですが、その様子は同団のツイッターアカウントなどでも広報されています。あわせてご覧ください。
@newjapanphil
続いてアルミンクが次の2011/2012シーズンについての意気込みを語りました。
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次シーズンについて語るアルミンク。
新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督:クリスティアン・アルミンク
来シーズンの主役はオーケストラ。新日本フィルのメモリアルイヤーでもあるので、オーケストラにスポットを当てたい。
客演指揮者はお馴染みの顔ぶれでハーディングも数回来日する予定だ。
また前日初めて共演したメッツマッハーの他、ジャン=クリストフ・スピノジも再演する。そして初登場は北欧のトーマス・ダウスゴー。彼は私が招きたいと思っていた指揮者の一人だ。
そして公演のハイライトとしていくつかのプログラムについて、同じくアルミンクより簡単なコメントがありました。
新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督:クリスティアン・アルミンク
これまでマーラーの10曲の交響曲を取り上げてきたので、それと対になる形でのブルックナーを演奏したい。
2年前もシュミットを演奏、さらには録音を行ったが、今回は交響曲第2番を取り上げる。
マーラーの「嘆きの歌」を演奏する。この曲は彼が20歳の頃に書いた作品だが、後の交響曲のエッセンスが全てつまっている。あまり上演頻度が高くないのはともかく演奏が難しいから。オケも合唱も大編成でかつバンダも必要。それにソプラノやアルト以外にも、ボーイアルトなどの少年の歌い手が必要。しっかり取り組むつもりだ。
メッツマッハーの振る10月のサントリー公演は大変興味深い。知的なプログラムで政治的な色合いの濃い作品を並べたのはいかにも彼らしいではないか。レオノーレでは自由解放を、アイヴズの「ニューイングランドの三つの場所」ではアメリカにとっての理想などを読み取り、最後に言うまでもなく政治的な作品であるショスタコーヴィチの第5番を取り上げている。
ティエリー・エスケシュの「ヴァイオリン協奏曲」を日本初演する。彼はフランス屈指のオルガニストとして知られているが、作曲家としての知名度は低い。この曲も極めて難しいが、オーケストラに色を与えることが出来る。
ここで共演予定のメッツマッハーのコメントが映像で紹介された後、最後の質疑応答が簡単に行われました。
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ビデオ出演するインゴ・メッツマッハー。
そこで印象深かったのはハーディングがメッツマッハーと長い関係を築きたいと願っていることや、事務局として経営環境が厳しい中、アルミンクにもそうした状況を説明してこうしたプログラムを考えていることなどでした。
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以上です。全110分程度という長丁場でしたが、半分司会をつとめながらも質問に丁寧にこたえるアルミンクはもちろん、時に熱い口調で語るブリュッヘンの真摯な音楽に対する姿勢などがとても印象的でした。
なおこの発表会の詳細な内容については既に同オーケストラのWEBサイトでも公開されています。
記者発表会リポート(1):Beethoven Project
記者発表会リポート(2):2011-2012シーズン定期演奏会
また新シリーズのプログラムについてもPDFにて告知されています。
2011/2012シーズン詳細決定!
最後になりましたが、このような貴重な機会を与えて下さった新日本フィルハーモニー交響楽団の方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。
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