都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「New Vision Saitama 4(ニュー・ヴィジョン・サイタマ 4)」 埼玉県立近代美術館
埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区常盤9-30-1)
「New Vision Saitama 4(ニュー・ヴィジョン・サイタマ 4) - 静観するイメージ」
1/29-3/21

埼玉県ゆかりの現代アーティストの活動を紹介します。埼玉県立近代美術館で開催中の「ニュー・ヴィジョン・サイタマ 4」へ行ってきました。
ニュー・ヴィジョン云々と聞いても馴染みの薄い方が多いかもしれませんが、この展覧会は同美術館が93年より不定期で開催してきた現代アートのグループ展で、今回で計4回を数えるまでに至っています。
実は埼玉県美の恒例企画です。実は私も前回(3回目)に初めて伺ったに過ぎませんが、意外にも他所では少ないご当地作家のみの展示ということでとても印象に残っていました。
なお今回は前回の2008年以来、約3年ぶりの開催です。同館の学芸員が各1名ずつ推薦した7名のアーティストが、写真や彫刻、そしてインスタレーションなど思い思いの表現を繰り広げていました。
出品作家は以下の通りです。
樋口恭一:1959年東京都生まれ、埼玉県鶴ヶ島市在住
秋元珠江:1971年埼玉県旧・浦和市生まれ、さいたま市在住
市川裕司:1979年埼玉県嵐山町生まれ、東京都町田市在住
塩崎由美子:1954年埼玉県旧・浦和市生まれ、スウェーデンとさいたま市に在住
榮水亜樹:1981年埼玉県春日部市生まれ、春日部市在住
荻野僚介:1970年埼玉県川越市生まれ、東京都練馬区在住
町田良夫:1967年埼玉県旧・浦和市生まれ、神奈川県横浜市在住
前回までは特にテーマなどがありませんでしたが、今回は初めて各作家を繋ぐ緩やかなキーワードとして「静観するイメージ」が設定されました。

樋口恭一 「祭りの火」 2010年 黒御影石、鉄粉による彩色
さて静観ならぬ静謐なオブジェで見る者の心を洗うのは展示冒頭、それぞれが寄り添うように並びたつ樋口恭一の黒御影石の作品でした。樋口は天然石をカット、時にそのまま用いて組み合わせ、例えば古代に使われた祭祀具のような独特の彫刻を作っています。
作品はいわゆる抽象ですが、そのモニュメンタルな造形を見つめていると、例えば楽器などの何らかの道具に思えてくるのが不思議でなりません。表面を覆う鉄粉など、石でありながらもどこか温かみのある質感も魅力的でした。
ご当地埼玉色が最も色濃く反映されているのは、まさに美術館のある北浦和公園で撮影した風景を取り込んだ、秋元珠江のインスタレーションに他なりません。

秋元珠江「1ミクロン(葉の線)」2010年 インクジェットプリント
彼女は泡に写り込んだような小さな景色を大きく引き延ばし、あたかもガラス玉を覗きこんで見たかのような七色に染まる世界を写真で表現しています。
写された泡の表面に注視すると美術館の建物などの見慣れた景色が確かに浮き上がっていました。 埼玉県美を訪ねる魅力としてこの北浦和公園の存在もありますが、それを改めて感じさせる作品と言えるかもしれません。
ちなみにこのインスタレーションは同館で唯一、外の景色が望める部屋に展示されています。窓の外の実景との対比も巧みでした。

塩崎由美子「シリーズ恢復より」2011年 発色現像方式印画
展示としてとりわけ完成度が高いのは塩崎由美子の写真、もしくは映像によるインスタレーションです。彼女は北浦和公園ではなく、現在住んでいるストックホルムの景色を不思議なブレのあるイメージで多様に写し出しています。
また興味深いのはホログラムを取り込んだ手法です。北欧の森は蝋燭の炎とホログラムに揺さぶられ、幻想的な祈りの地へと変化していました。
絵画で見逃せないのは出品作家中最年少で、2008年にMA2ギャラリー(恵比寿)のグループ展の印象も鮮やかな榮水亜樹によるアクリルと油彩画です。まるで白いレースの目地のように繊細なタッチにて、何らかの物語世界を連想させる心象風景を描いています。

榮水亜樹「センチメンタル」(部分)2007年 油彩、綿布パネル
折り重なる白い点と面はキャンバスや綿布に沈みこみ、小さな光となって仄かに灯っています。作品の前に立ち、三次元的な広がりを持つイメージを頭の中で散歩しているとしばし時間を忘れました。

市川裕司「archeocyte」(参考図版)2010年 方解末、典具帖紙、スチール、アクリル板
その他にも随所にユーモア感覚に溢れながらも、全体としてはミニマル音楽を聞いているような心地良さを覚える荻野僚介の絵画や、一点勝負のインスタレーションで木漏れ日に満ちた空間を生み出す市川裕司なども見応えがありました。特に一度、まとめて拝見したいと思っていた荻野の展示は私にとって良い機会となりました。
荻野僚介「W727×h910×d27」2009年 アクリル絵具、キャンバス
[今後の関連企画]
・出品作家と学芸員によるギャラリートーク
2月19日(土)15:00~16:00 ゲスト:塩崎由美子、町田良夫
3月5日(土)15:00~16:00 ゲスト:市川裕司、荻野僚介
・町田良夫ミニ・ライブ 「スティールパン・アコースティック」 2月19日(土)16:00~16:30
・町田良夫コンサート 「スティールパン・エレクトロニクス」 3月6日(日) 15:00~16:00
決して華々しい展覧会ではありませんが、あくまでも地元にゆかりのある作家にこだわり、こうした企画を地道に続ける埼玉県立美術館には拍手を送りたいと思います。次回にも期待したいです。
3月21日まで開催されています。
*開館日時:火~日(月休。但し3/21は開館。) 10:00~17:30(入館は閉館の30分前)
「New Vision Saitama 4(ニュー・ヴィジョン・サイタマ 4) - 静観するイメージ」
1/29-3/21

埼玉県ゆかりの現代アーティストの活動を紹介します。埼玉県立近代美術館で開催中の「ニュー・ヴィジョン・サイタマ 4」へ行ってきました。
ニュー・ヴィジョン云々と聞いても馴染みの薄い方が多いかもしれませんが、この展覧会は同美術館が93年より不定期で開催してきた現代アートのグループ展で、今回で計4回を数えるまでに至っています。
実は埼玉県美の恒例企画です。実は私も前回(3回目)に初めて伺ったに過ぎませんが、意外にも他所では少ないご当地作家のみの展示ということでとても印象に残っていました。
なお今回は前回の2008年以来、約3年ぶりの開催です。同館の学芸員が各1名ずつ推薦した7名のアーティストが、写真や彫刻、そしてインスタレーションなど思い思いの表現を繰り広げていました。
出品作家は以下の通りです。
樋口恭一:1959年東京都生まれ、埼玉県鶴ヶ島市在住
秋元珠江:1971年埼玉県旧・浦和市生まれ、さいたま市在住
市川裕司:1979年埼玉県嵐山町生まれ、東京都町田市在住
塩崎由美子:1954年埼玉県旧・浦和市生まれ、スウェーデンとさいたま市に在住
榮水亜樹:1981年埼玉県春日部市生まれ、春日部市在住
荻野僚介:1970年埼玉県川越市生まれ、東京都練馬区在住
町田良夫:1967年埼玉県旧・浦和市生まれ、神奈川県横浜市在住
前回までは特にテーマなどがありませんでしたが、今回は初めて各作家を繋ぐ緩やかなキーワードとして「静観するイメージ」が設定されました。

樋口恭一 「祭りの火」 2010年 黒御影石、鉄粉による彩色
さて静観ならぬ静謐なオブジェで見る者の心を洗うのは展示冒頭、それぞれが寄り添うように並びたつ樋口恭一の黒御影石の作品でした。樋口は天然石をカット、時にそのまま用いて組み合わせ、例えば古代に使われた祭祀具のような独特の彫刻を作っています。
作品はいわゆる抽象ですが、そのモニュメンタルな造形を見つめていると、例えば楽器などの何らかの道具に思えてくるのが不思議でなりません。表面を覆う鉄粉など、石でありながらもどこか温かみのある質感も魅力的でした。
ご当地埼玉色が最も色濃く反映されているのは、まさに美術館のある北浦和公園で撮影した風景を取り込んだ、秋元珠江のインスタレーションに他なりません。

秋元珠江「1ミクロン(葉の線)」2010年 インクジェットプリント
彼女は泡に写り込んだような小さな景色を大きく引き延ばし、あたかもガラス玉を覗きこんで見たかのような七色に染まる世界を写真で表現しています。
写された泡の表面に注視すると美術館の建物などの見慣れた景色が確かに浮き上がっていました。 埼玉県美を訪ねる魅力としてこの北浦和公園の存在もありますが、それを改めて感じさせる作品と言えるかもしれません。
ちなみにこのインスタレーションは同館で唯一、外の景色が望める部屋に展示されています。窓の外の実景との対比も巧みでした。

塩崎由美子「シリーズ恢復より」2011年 発色現像方式印画
展示としてとりわけ完成度が高いのは塩崎由美子の写真、もしくは映像によるインスタレーションです。彼女は北浦和公園ではなく、現在住んでいるストックホルムの景色を不思議なブレのあるイメージで多様に写し出しています。
また興味深いのはホログラムを取り込んだ手法です。北欧の森は蝋燭の炎とホログラムに揺さぶられ、幻想的な祈りの地へと変化していました。
絵画で見逃せないのは出品作家中最年少で、2008年にMA2ギャラリー(恵比寿)のグループ展の印象も鮮やかな榮水亜樹によるアクリルと油彩画です。まるで白いレースの目地のように繊細なタッチにて、何らかの物語世界を連想させる心象風景を描いています。

榮水亜樹「センチメンタル」(部分)2007年 油彩、綿布パネル
折り重なる白い点と面はキャンバスや綿布に沈みこみ、小さな光となって仄かに灯っています。作品の前に立ち、三次元的な広がりを持つイメージを頭の中で散歩しているとしばし時間を忘れました。

市川裕司「archeocyte」(参考図版)2010年 方解末、典具帖紙、スチール、アクリル板
その他にも随所にユーモア感覚に溢れながらも、全体としてはミニマル音楽を聞いているような心地良さを覚える荻野僚介の絵画や、一点勝負のインスタレーションで木漏れ日に満ちた空間を生み出す市川裕司なども見応えがありました。特に一度、まとめて拝見したいと思っていた荻野の展示は私にとって良い機会となりました。

荻野僚介「W727×h910×d27」2009年 アクリル絵具、キャンバス
[今後の関連企画]
・出品作家と学芸員によるギャラリートーク
2月19日(土)15:00~16:00 ゲスト:塩崎由美子、町田良夫
3月5日(土)15:00~16:00 ゲスト:市川裕司、荻野僚介
・町田良夫ミニ・ライブ 「スティールパン・アコースティック」 2月19日(土)16:00~16:30
・町田良夫コンサート 「スティールパン・エレクトロニクス」 3月6日(日) 15:00~16:00
決して華々しい展覧会ではありませんが、あくまでも地元にゆかりのある作家にこだわり、こうした企画を地道に続ける埼玉県立美術館には拍手を送りたいと思います。次回にも期待したいです。
3月21日まで開催されています。
*開館日時:火~日(月休。但し3/21は開館。) 10:00~17:30(入館は閉館の30分前)
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