都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「琳派芸術 第2部 転生する美の世界」 出光美術館
出光美術館(千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)
「酒井抱一生誕250年 琳派芸術 第2部 転生する美の世界」
2/11-3/21
生誕250年を迎えた酒井抱一の詩情あふれた絵画空間を展観します。出光美術館で開催中の「酒井抱一生誕250年 琳派芸術 第2部 転生する美の世界」へ行ってきました。
主に光悦・宗達から光琳までを追った第1部より展示替えを挟み、現会期の第2部での主役は愛すべき抱一に他なりません。宗達・光琳らの絢爛豪華な金の世界より新たに転化したのは、朧げな月明かりを連想させる銀の世界でした。
展覧会の構成は以下の通りです。(出品リスト)
1章 琳派の系譜
2章 薄明の世界
3章 抱一の美
4章 其一の美
初めに宗達を含む、伊勢、もしくは源氏物語を主題とする絵画で琳派の変遷を辿った上で、抱一、其一らの江戸琳派の作品を紹介していました。
「風神雷神図屏風」 酒井抱一 江戸時代 出光美術館
宗達、光琳、そして抱一を結ぶ作品として必ず挙げられる「風神雷神図屏風」も久々にお出ましです。今回は抱一作一点のみの展示でしたが、宗達画の神々しい世界を一転した、人懐っこい、また飄々とした様の風神雷神の姿からは、まさに抱一ならではの諧謔味と軽妙洒脱な画風を見ることが出来ます。
そもそも抱一は宗達画を知らなかった上、モデルとなった光琳作の風神雷神に対してはあくまでも夏秋草図屏風で返答したため、この3点を並べて云々するのは適切ではないかもしれませんが、宗達と光琳画を頭の中で思い浮かべながら、改めてそれぞれに全く異なった絵師の性格に見入るものがありました。
よく知られている通り、抱一は畢竟の大作「夏秋草図屏風」を光琳の「風神雷神図屏風」の裏に描きましたが、それと同じような裏絵の体裁をとる屏風が一点紹介されています。それが六曲一双の白銀の中で梅が対峙する「紅白梅図屏風」でした。
「紅白梅図屏風」 酒井抱一 江戸時代 出光美術館
紅白梅図屏風と言えば光琳作の国宝が名高いところですが、そちらにおける緊張感のある構図とは一転、この抱一作は白梅と紅梅があくまでも穏やかに語り合うかのようにして並んでいます。ちなみにこの屏風の表は具体的な作品こそ分かっていないものの、金屏風であったことが推測されているそうです。
さて今回、私が抱一で一番気にいったのは、小品の「四季花鳥図屏風」でした。同名の作品というと大琳派展でも出ていた陽明文庫所蔵の大作屏風が挙げられますが、こちらはいわゆる雛屏風で、サイズも縦横で21×72センチほどの大きさに過ぎません。
表には金をあしらい、細密な筆にて花鳥を描く一方、裏には得意とする銀地に波のたゆたう様子を描いています。少しかがんで下から見上げると、月明かりに煌めく波の描写が仄かに浮きあがってきました。小品ながらも抱一らしい繊細な感性を伺い知れる佳作ではないでしょうか。何度も表と裏を行き来してしまいました。
「蔬菜群虫図」 鈴木其一 江戸時代 出光美術館
最後に待ち構えているのは、抱一の弟子でもあり、後に近代日本画を予感させる新たな境地を切り開いた鈴木其一の諸作品です。其一は抱一の画風を越えると断然に面白くなりますが、まるで虫や植物の表現に若沖画の影響を思わせる「蔬菜群虫図」や、代表作「夏秋渓流図」にも近い、アクの強い極彩色の世界が光る「四季花木図屏風」など、出光ではお馴染みの作品を楽しむことが出来ました。
また順序が逆になりますが、其一では展示冒頭の第一作、「三十六歌仙図」も見逃せません。ひしめきあう歌仙たちのコミカルな描写も興味深いところですが、この作品の表具は実は其一が直接描き込んだ、いわゆる「絵表装」です。
そう言えば文化村のだまし絵展にも絵表装の其一画が出ていましたが、最近彼に俄然人気が高まっているのも、こうした遊び心があるからなのかもしれません。
春に根津美術館のKORIN展でお披露目がある光琳作を模した、抱一の「八ツ橋図屏風」も登場していました。
「八ツ橋屏風」 酒井抱一 江戸時代 出光美術館蔵
なお会場には光琳作との違いについて触れたパネルも用意されています。全体的に花群を整理して余白を広げ、たらしこみも瑞々しい橋の連なる光景は、どこか牧歌的な風情を醸し出していました。
ちなみに先日、根津美術館のKORIN展の詳細が同館のWEBサイトでアップされました。
KORIN展 - 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」@根津美術館
会期:2011年4月16日(土)~5月15日(日)
こちらも当然ながら琳派ファン待望の展覧会となること間違いありません。
第二部は其一の「芒野図屏風」を除き全て館蔵品ということもあってか、やや新鮮味に欠けたのも事実ですが、「夏秋草図屏風」の草稿など、マニア心をくすぐる作品もあって楽しめます。
また第一部の感想でも触れましたが、作品の配置もなかなか秀逸です。伊勢物語の主題をとった乾山の「色絵能絵皿」から目を上に向けると、正面に抱一の「八ツ橋図屏風」が見えることなど、イメージを膨らませる仕掛けも巧みでした。
今年は抱一のおかげで琳派イヤーです。上に触れた根津美術館の「KORIN」展、そして今秋に千葉市美術館で開催される「酒井抱一と江戸琳派の全貌」と楽しみな展示も控えています。もちろん昨日のエントリにもあげた畠山記念館の「酒井抱一 琳派の華」もお見逃しなきようご注意下さい。
「酒井抱一 琳派の華」(後期) 畠山記念館(拙ブログ)
館内は予想以上に賑わっていました。ひょっとすると会期末に近づくにつれて混雑してくるかもしれません。
「すぐわかる琳派の美術/仲町啓子/東京美術」
3月21日までの開催です。第一部同様におすすめします。
*関連エントリ
「琳派芸術 第1部 煌めく金の世界」 出光美術館
*開館日時:火~日(月休。但し3月21日は開館。) 10:00~17:00(入館は16:30まで) 毎週金曜日は19:00まで。(入館は18:30まで)
「酒井抱一生誕250年 琳派芸術 第2部 転生する美の世界」
2/11-3/21
生誕250年を迎えた酒井抱一の詩情あふれた絵画空間を展観します。出光美術館で開催中の「酒井抱一生誕250年 琳派芸術 第2部 転生する美の世界」へ行ってきました。
主に光悦・宗達から光琳までを追った第1部より展示替えを挟み、現会期の第2部での主役は愛すべき抱一に他なりません。宗達・光琳らの絢爛豪華な金の世界より新たに転化したのは、朧げな月明かりを連想させる銀の世界でした。
展覧会の構成は以下の通りです。(出品リスト)
1章 琳派の系譜
2章 薄明の世界
3章 抱一の美
4章 其一の美
初めに宗達を含む、伊勢、もしくは源氏物語を主題とする絵画で琳派の変遷を辿った上で、抱一、其一らの江戸琳派の作品を紹介していました。
「風神雷神図屏風」 酒井抱一 江戸時代 出光美術館
宗達、光琳、そして抱一を結ぶ作品として必ず挙げられる「風神雷神図屏風」も久々にお出ましです。今回は抱一作一点のみの展示でしたが、宗達画の神々しい世界を一転した、人懐っこい、また飄々とした様の風神雷神の姿からは、まさに抱一ならではの諧謔味と軽妙洒脱な画風を見ることが出来ます。
そもそも抱一は宗達画を知らなかった上、モデルとなった光琳作の風神雷神に対してはあくまでも夏秋草図屏風で返答したため、この3点を並べて云々するのは適切ではないかもしれませんが、宗達と光琳画を頭の中で思い浮かべながら、改めてそれぞれに全く異なった絵師の性格に見入るものがありました。
よく知られている通り、抱一は畢竟の大作「夏秋草図屏風」を光琳の「風神雷神図屏風」の裏に描きましたが、それと同じような裏絵の体裁をとる屏風が一点紹介されています。それが六曲一双の白銀の中で梅が対峙する「紅白梅図屏風」でした。
「紅白梅図屏風」 酒井抱一 江戸時代 出光美術館
紅白梅図屏風と言えば光琳作の国宝が名高いところですが、そちらにおける緊張感のある構図とは一転、この抱一作は白梅と紅梅があくまでも穏やかに語り合うかのようにして並んでいます。ちなみにこの屏風の表は具体的な作品こそ分かっていないものの、金屏風であったことが推測されているそうです。
さて今回、私が抱一で一番気にいったのは、小品の「四季花鳥図屏風」でした。同名の作品というと大琳派展でも出ていた陽明文庫所蔵の大作屏風が挙げられますが、こちらはいわゆる雛屏風で、サイズも縦横で21×72センチほどの大きさに過ぎません。
表には金をあしらい、細密な筆にて花鳥を描く一方、裏には得意とする銀地に波のたゆたう様子を描いています。少しかがんで下から見上げると、月明かりに煌めく波の描写が仄かに浮きあがってきました。小品ながらも抱一らしい繊細な感性を伺い知れる佳作ではないでしょうか。何度も表と裏を行き来してしまいました。
「蔬菜群虫図」 鈴木其一 江戸時代 出光美術館
最後に待ち構えているのは、抱一の弟子でもあり、後に近代日本画を予感させる新たな境地を切り開いた鈴木其一の諸作品です。其一は抱一の画風を越えると断然に面白くなりますが、まるで虫や植物の表現に若沖画の影響を思わせる「蔬菜群虫図」や、代表作「夏秋渓流図」にも近い、アクの強い極彩色の世界が光る「四季花木図屏風」など、出光ではお馴染みの作品を楽しむことが出来ました。
また順序が逆になりますが、其一では展示冒頭の第一作、「三十六歌仙図」も見逃せません。ひしめきあう歌仙たちのコミカルな描写も興味深いところですが、この作品の表具は実は其一が直接描き込んだ、いわゆる「絵表装」です。
そう言えば文化村のだまし絵展にも絵表装の其一画が出ていましたが、最近彼に俄然人気が高まっているのも、こうした遊び心があるからなのかもしれません。
春に根津美術館のKORIN展でお披露目がある光琳作を模した、抱一の「八ツ橋図屏風」も登場していました。
「八ツ橋屏風」 酒井抱一 江戸時代 出光美術館蔵
なお会場には光琳作との違いについて触れたパネルも用意されています。全体的に花群を整理して余白を広げ、たらしこみも瑞々しい橋の連なる光景は、どこか牧歌的な風情を醸し出していました。
ちなみに先日、根津美術館のKORIN展の詳細が同館のWEBサイトでアップされました。
KORIN展 - 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」@根津美術館
会期:2011年4月16日(土)~5月15日(日)
こちらも当然ながら琳派ファン待望の展覧会となること間違いありません。
第二部は其一の「芒野図屏風」を除き全て館蔵品ということもあってか、やや新鮮味に欠けたのも事実ですが、「夏秋草図屏風」の草稿など、マニア心をくすぐる作品もあって楽しめます。
また第一部の感想でも触れましたが、作品の配置もなかなか秀逸です。伊勢物語の主題をとった乾山の「色絵能絵皿」から目を上に向けると、正面に抱一の「八ツ橋図屏風」が見えることなど、イメージを膨らませる仕掛けも巧みでした。
今年は抱一のおかげで琳派イヤーです。上に触れた根津美術館の「KORIN」展、そして今秋に千葉市美術館で開催される「酒井抱一と江戸琳派の全貌」と楽しみな展示も控えています。もちろん昨日のエントリにもあげた畠山記念館の「酒井抱一 琳派の華」もお見逃しなきようご注意下さい。
「酒井抱一 琳派の華」(後期) 畠山記念館(拙ブログ)
館内は予想以上に賑わっていました。ひょっとすると会期末に近づくにつれて混雑してくるかもしれません。
「すぐわかる琳派の美術/仲町啓子/東京美術」
3月21日までの開催です。第一部同様におすすめします。
*関連エントリ
「琳派芸術 第1部 煌めく金の世界」 出光美術館
*開館日時:火~日(月休。但し3月21日は開館。) 10:00~17:00(入館は16:30まで) 毎週金曜日は19:00まで。(入館は18:30まで)
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