「ジャン=ミシェル オトニエル:マイウェイ」 原美術館

原美術館
「ジャン=ミシェル オトニエル:マイウェイ」
1/7-3/11



パリに生まれ、ムラーノガラスなどを素材とした作品で知られるフランスの現代美術家、ジャン=ミシェル オトニエルの制作を紹介します。原美術館で開催中のジャン=ミシェル オトニエル個展、「マイウェイ」のプレスプレビューに参加してきました。

昨年、ガラス玉の作品を掲載したDMに一目惚れして以来、まだかまだかと待っていた展覧会でしたが、実際の会場に足を踏み入れても、その期待を裏切られることはありませんでした。

そもそもこの「マイウェイ」展は、2011年3月のポンピドゥーに始まりソウル、ここ東京、そしてニューヨークへと渡る国際巡回展です。ポンピドゥーでは約20万名もの入場者が押し掛けたほどの人気でした。


ギャラリー2、展示室風景

当然ながら規模こそポンピドゥーとは異なりますが、邸宅を用いた原美術館との相性は抜群です。


手前:「ハーネス」1997年 ムラーノクリスタルガラス。右奥:「2連ネックレス」2010年 ムラーノガラス

実はこの展覧会は元々、原美術館よりポンピドゥーへ巡回する予定でした。つまりオトニエルはこの原美術館の空間を最初にイメージして、巡回展の構想を立ち上げていたわけです。

またオトニエルと原美術館の繋がりも決して一朝一夕に築かれたわけではありません。

1991年、別館ハラミュージアムアークの「Too French」展に出品したオトニエルは、2009年に同館に野外作品「kokoro」を設置するなど、20年に及ぶ交流を深めてきました。


ギャラリー2、展示室風景

それに今回もオトニエルは昨年末のクリスマスより日本に滞在し、個展の準備を続けています。彼自身、原美術館を「エレガント」と讃えていますが、その空間での待望の個展がようやく実現したというわけでした。

さてタイトルの「マイウェイ」とあるように、必ずしも最近のガラス玉だけでなく、それ以前の素材を用いた作品を展示して、制作の全体像を時間軸で見せているのも、この個展の大きな特徴と言えるかもしれません。


右:「グローリー ホールズ」1995年 布に刺繍。中:「グローリー ホールズ」1998年 ビデオ(3分)。左:「長い苦しみへの入口」1992-93年 硫黄 他

今でこそオトニエルはガラスというなくてはならない素材を獲得しましたが、そこに至るまでの道のりは必ずしも平坦ではありませんでした。

制作当初、最も重要な素材だったのは、蜜蝋と硫黄です。特に硫黄はオトニエルが10年以上作品に使い続けていた素材ですが、彼はよほど興味があったらしく、硫黄の生まれる様子を見ようと、イタリア南部の火山まで出向いたことがあったそうです。

結果的にそこで黒曜石と出会い、今度はそれを切っ掛けにガラスへと辿り着いたわけですが、これらの素材に共通する「可変性」も、オトニエルの作品にとって重要なキーワードと言えるのかもしれません。


「自立する大きな結び目」2011年 鏡面ガラス、金属

またガラスと出会ったオトニエルは制作のスタイル自体も大きく変化させます。

ガラスを使い始めたのは1993年頃だったそうですが、それこそイタリアのガラス制作の工房と同じように、自身もチームをつくることで、大掛かりなガラスのオブジェやインスタレーションを作り上げることが可能になりました。

美術館最大のスペース、1階の「ギャラリー2」では、そうしたオトニエルのガラスへの転換期を伺い知れる作品を一度に見ることが出来ます。


「涙」2002年 ガラス、水、テーブル

ここではガラスへの転換のポイントとなった黒曜石の「語音転換」にはじまり、90年代のムラーノガラスを用いたオブジェ、そして2000年以降のガラスに水を取り込んだ「涙」などが一同に展示されていました。


「涙」(拡大)2002年 ガラス、水、テーブル

また「涙」ではガラスの器を小宇宙に見立ていますが、それをギャラリーの空間全体で味わえるように工夫されています。またガラスの中で浮いているのはこれまで自作をイメージしたものですが、中には体の一部分のような、身体的特性をもったものがあるのも見逃せません。

宙に浮く旧作のムラーノガラスのオブジェしかり、単に美しいだけにとどまらないような身体性、つまり有機的なイメージを喚起させるのも、大きな魅力ではないでしょうか。


手前:「ラカンの大きな結び目」2011年 鏡面ガラス、金属。奥:「ラカンの結び目」2009年 鏡面ガラス、金属

かつて硫黄という素材に取り組み、官能的で、また時には美と醜の境界面を越えた作品を作った経験があるからこそ実現した、半ば実存的な世界を構築しているのも、オトニエル作品の強みと言えるのかもしれません。

さて今回の個展では、フランスの子ども服ブランド・ポンポワンとの共催により、3D画像を用いたワークショップ「不思議な現実」が行われています。


ワークショップ「ふしぎな現実」

オトニエルはまずデッサンを行い、それをコンピューターで処理した上で、出来あがったイメージをガラスにしているそうですが、ワークショップではその中間のステップ、つまりCGの部分を3DのAR(拡張現実)の技術で楽しめるというわけです。


ワークショップ「ふしぎな現実」

一応、子ども向けとありますが、大人も十分に遊べます。是非とも体験してみてください。


「私のベッド」2002年 ムラーノガラス、アルミニウム、飾りひも、フェルト

プレビュー時、まだ日没前に入場し、しばらく展示を拝見したらいつの間にやら日が暮れていましたが、昼と夜で作品の見え方がかなり違っていることに気がつきました。


屋外プロジェクション

屋外展示しかり、夜間はライティングの効果もあってか、作品がより際立ちます。幸いなことに原美術館は毎週水曜日は夜間開館日(20時まで)です。オトニエルの幻想世界は、夜の闇を伴うと妖しいほどのオーラを放ちます。ガラスに溶け込んで反射する光は驚くほどに魅惑的でした。


「涙」の前で解説するジャン=ミシェル オトニエル

最後に朗報です。この展覧会は一部常設を除き、作品の撮影が可能です。原美術館の中で写真が撮れると聞いて俄然、興味のわく方も多いのではないでしょうか。そのチャンスは今、このオトニエル展だけです。

「Jean-Michel Othoniel/Centre Georges Pompidou Service Commercial」

3月11日まで開催します。これはおすすめします。

「ジャン=ミシェル オトニエル:マイ ウェイ」 原美術館@haramuseum
会期:1月7日(土)~3月11日(日)
休館:月曜日。但し1月9日(祝)は開館、但し翌日10日は休館。
時間:11:00~17:00。*毎週水曜日は20時まで開館。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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