「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」
1/7-3/28



ブリヂストン美術館で開催中の「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」のプレスプレビューに参加してきました。

今年、開館60周年を迎えたブリヂストン美術館ですが、ちょうど50年前、同館のコレクションがパリでまとめて公開されたことがあったのをご存知でしょうか。

それがタイトルにもある1962年の春、5月4日よりパリ国立近代美術館で行われた「東京石橋コレクション所蔵 コローからブラックへ至るフランス絵画展」です。

実はこれこそが日本の西洋絵画コレクションが海外で紹介された初めての出来事でしたが、今回は「パリへ渡った石橋コレクション」と題し、その展覧会を再現しています。

出品は当時、パリへと渡った作品、約50点です。うち今も同館のコレクションとして残っているのは約45点ほどですが、失われた作品に関しては精巧なパネルまで用意して構成しています。力が入っていました。


「資料編」展示室風景

馴染みのあるコレクションをこうした切り口で鑑賞するのも新鮮ですが、今回非常に興味深いのは、当時の展示に関する「資料編」のコーナーです。ここでは1962年の海外展のポスターにはじまり、現地での報道、また会場写真や映像などが登場していました。

そもそも石橋コレクションに初めて目を付けたのは、美術史家でパリ国立近代美術館副館長のベルナール・ドリヴァルです。彼はブリヂストン美術館開館2年後の1954年、来日して同館を訪れ、そのコレクションの質の高さに驚きました。


「コネサンス・デザール誌」1958年

以来、ドリヴァルはブリヂストン美術館に深い関心を寄せていきます。そして彼は1958年、フランスの美術雑誌「コネサンス・デザール」に石橋コレクションを紹介し、3年後の1961年、当時の館長だった石橋正二郎へパリでの展覧会の開催を持ちかけました。

結果、翌1962年に展覧会は実現しましたが、そこへ至るには大変な努力があったそうです。とりわけ輸送に関しては細心の注意が払われます。作品はジュラルミンケースに梱包され、計6機の飛行機に分けて送られたそうです。念には念をということなのかもしれません。


「東京石橋コレクション所蔵 コローからブラックに至るフランス絵画展」展覧会ポスター

ポスターにも秘話があります。コローの「ー」が縦の「|」になっているのにお気づきでしょうか。これは現地へ日本から縦書きで送った原稿が、横書きでもそのまま表記されてしまったからだそうです。


「三人の蒐集家 アール紙」 1962年

また展覧会の開催にあわせ、フランス文化相のアンドレ・マルローのすすめにより、パリで作品の修復作業も行われました。ちなみに油彩の洗浄は当時、日本で極めて珍しかったせいか大変な関心を呼び起こします。そしてこれをきっかけに日本でも試みられるようになりました。


「記録映画 石橋コレクション・パリ」

その他、盛大なオープニングの様子、展示会場の様子なども「資料編」の記録映画(10分ほど)で紹介されています。なお作品は日本の屏風を模した仮設壁にかけて飾っていたとのことでした。

さて作品に関しては先ほども触れた、今はコレクションではなくなったものについても見逃せません。


「作品編」展示室風景

出品50点のうち数点は当時から同館のコレクションではなく、いわゆる寄託であったそうですが、今回はそうした珍しい作品がパネルで登場しています。

キーパーソンは酒井億尋です。彼は畠山記念館でも知られる在原製作所と関係が深く、創業者の畠山一清の長女と結婚し、二代目社長に就任しましたが、絵画コレクターとしても有名で、セザンヌやルノワールなどの名作を多く収蔵していました。


ルノワールの「赤いコルサージュの少女」1905年 *パネル、参考図版

その一つがセザンヌの静物の大作、「リンネルの上の果物」(1890-94年)です。またルノワールの「赤いコルサージュの少女」(1905年頃)も酒井氏のお気に入りで、自邸に飾っていたときは、絵画に向けて挨拶したというエピソードも残っています。

またこうした酒井氏旧蔵の他で興味深いのは、ゴーガンに帰属の「若い女の顔」(1886年)ではないでしょうか。かつてはゴーガン作として紹介されていましたが、今は諸説あり、いわゆる帰属作として扱われています。ちなみにこの作品はこうした経緯もあり、最近は美術館で滅多に公開されてきませんでした。

こうしたいわゆる珍品を楽しめるのも今回の展覧会の魅力かもしれません。

さてちらし表紙にピカソの「女の顔」(1923年)であるのには理由があります。実はこれこそが開館記念時のポスターにも掲載され、石橋正二郎が大のお気に入り作品であったものに他なりません。

そもそも石橋コレクションでは作品の購入にあたり、真贋に関しては様々な専門的の調査を行ってきましたが、このピカソだけは正二郎がそうした手続きを得る前に購入したそうです。石橋氏は絵画においては具象的なモチーフを好んでいたとのことですが、ようは彼の一目惚れの作品とでも言えるかもしれません。

なおこの企画展示のあとには通常の所蔵品展が続きますが、正二郎が好んで集めた初期コレクションとの違いについて注意してみるのも良いのではないでしょうか。


中央:ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」1904-06年頃

それにしても開館当初よりこれほど質の高いコレクションが揃っていたブリヂストン美術館には改めて感心させられます。大好きな「サント=ヴィクトワール山」もこの作品より美しいものを知りません。

一時中断していた毎週金曜の夜間開館も復活しました。金曜は夜20時までの開館です。(金曜が祝日に当たる場合は通常通り18時閉館。)

3月28日まで開催されています。

「パリへ渡った 石橋コレクション 1962年、春」 ブリヂストン美術館
会期:1月7日(土)~3月18日(日)
休館:月曜日(1月9日は開館)
時間:10:00~18:00 *毎週金曜日は20:00まで。
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口より徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口から徒歩5分。東京メトロ銀座線・東京メトロ東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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