「北川貴好:フロアランドスケープ」 アサヒ・アートスクエア

アサヒ・アートスクエア
「オープン・スクエア・プロジェクト2011企画展 北川貴好:フロアランドスケープ - 開き、つないで、閉じていく」
1/14-2/5



アサヒ・アートスクエアで開催中の「北川貴好:フロアランドスケープ」へ行ってきました。

浅草・吾妻橋先、個性的なオブジェでも知られるアサヒビールのスーパードライホールですが、昨年よりその一角を現代美術作家に開放し、作品制作と発表を行わせるプロジェクトが始まりました。

それがこの「アサヒ・アートスクエア オープン・スクエア・プロジェクト」です。

そして今回第一弾、約40組からの作家から公募で選ばれたのは、1974年に大阪で生まれ、「空間そのものを新しい風景へと変換させていく作品を制作している」(ちらしより引用)、北川貴好でした。


「フロアランドスケープ」

ともかく会場に入って驚かされるのは、楕円形の空間の半分以上を埋め尽くすかのように設置された白い床ではないでしょうか。


「フロアランドスケープ」を階上より撮影

白い床の上には何やら無数の穴が空き、そこからはいくつもの観葉植物や電球、それに空き缶、さらには穴のあいた部屋から洗濯機までが登場しています。

点滅する電球、いきなりゴウゴウと脱水を始め、床へ水たまりを広げる洗濯機、そして伸びやかに水を吹き上げる空き缶と、どこかシュールながらも、何やら楽し気な風景に思わず心が躍ってしまいました。


会場にてギャラリートークを行う北川貴好(右奥)

さて当日は作家、北川貴好のギャラリートークに参加しました。その様子を踏まえ、この広大な床のインスタレーション、「フロアランドスケープ」をご紹介したいと思います。

まずポイントとなるのがこの空間全体と床、そして穴、また照明との関係です。 北川はまずスクエアとはいえども、楕円を描く建築空間へどう手を加えたら良いのかを考え、この広い床を作るというアプローチをとりました。

また同スクエアは一般的にダンスや演劇公演に用いられることが多いため、照明が充実していますが、北川はそれを活かすことも忘れません。

床面の穴に対し天井の丸い照明器具は半ば対比的に存在しています。

照明が天井のソケット、ようは穴で繋がっているのと同じように、作品の飛び出す床面の穴も互いに関係して、それぞれが有機的な繋がりを持つように工夫されています。その上でさらに照度と作品を互いに呼応、変化させることで、天井と床、つまりは空間全体が一つの秩序のもとに連環するシステムを作り上げました。

まずは電球です。元々、北川は電球という素材そのものに強い関心があり、これまでも球状に吊るした作品などを制作してきましたが、今回は床の穴の上で小山のように盛っています。



大きい電球はこのスペースの天井の既存のものを使っているそうです。また電球は照度が変化しますが、その一部は劇場の照明を制御する装置を利用しているとのことでした。

続いて空き缶の噴水です。循環されてリズミカルに飛び出す水は調光装置と関係しています。その吹き上げてはまた消えゆく水の軌跡は、それこそ生き物が水を噴き出しているかのようにも見えるのではないでしょうか。



ちなみに缶は約700個もありますが、今回は会場にもちなみ、全てアサヒの缶が利用されています。同ビルの地下のゴミ箱から回収したそうです。



床の中央には林が登場します。グリッド状にあけた穴はポット内径とあわされ、そこから観葉植物がいくつも伸び出しています。



これらは北川が持参したものですが、草を出し、また時には花をも咲かせる植物がある一方、枯れて葉を落としていくものもあるそうです。生き物そのものを取り込むことで、作品全体の有機性をさらに高めていました。

やはり一際、目立つのは、水たまりを囲うように設置された3台の洗濯機ではないでしょうか。



なんとこれらの洗濯機は全て排水が穴によって繋がれています。つまりは排水が穴を経由して水たまりへ流れ、また今度は別の穴から吸い上げているわけです。

つまり水は洗濯機が動く限り、永遠に循環し続けます。

このアイデアは北川がアメリカで訪ねた砂漠の都市、ダラスを見て生まれたのだそうです。確かに白い床の上に突如出現する洗濯機はまるで都市のビルであり、また水たまりは砂漠のオアシスとも受け取ることが出来るのかもしれません。

またここでは水を吸い込む穴の音にも要注意です。チューチューという音はどこか官能的な響きを奏でてはいないでしょうか。

都市とは水を如何に制御するのかという問題を根本に抱えていると北川は指摘しますが、それが人工的な洗濯機と水という組み合わせによってまた浮かび上がっているのかもしれません。



さてその水の官能的なまでの表情をもっと簡潔な装置で示したのが、通称「ピクピク」と呼ばれる排水口を使った作品です。

排水口を身近なブラックホールと述べる北川は、身近な排水口から広がる水の永遠の循環性に着目し、それを身体的なイメージとあわせた「ピクピク」をつくりました。

最後にはこのピクピクがベットにまで登場します。



光と影が美しいコントラストを描く穴のあいた部屋にはベットが一つ置かれ、その上には何とピクピクが群れているではありませんか。



ベットの上で水を吐き出すピクピクの動きほど艶かしいものはありません。水は体液などの放出も連想させ、時に暗がりの場を生み出す照明効果とあいまり、まさに官能的な夜の世界を作り上げていました。

また北川はかつて家を一軒丸ごと穴をあけるプロジェクトを行ったほど穴にこだわっています。

床の穴、排水口の穴、そしてこの部屋の穴の例をあげるまでもなく、この内と外が行き来する穴、新たな境界と秩序を構築する穴、そしてタイトルにもある「開き、繋いで、閉じていく」穴こそが、今回の展覧会の最も重要なポイントというわけでした。

なお展示ではこの「フロアランドスケープ」の他に、過去や近作の映像作品なども紹介されています。意外なことに初個展ながらも、これまでの北川の制作を一同に見ることの出来る回顧展的な性格を持ち得ているかもしれません。

なお北川の展示ツアーは会期最終日前日、2月4日の土曜日にも行なわれます。

「ギャラリーツアー」
1月22日(日)、1月28日(土)、2月4日(土) 15:00~15:45
*北川貴好が展覧会の内容や各作品について解説します。

ツアーではまさに縁の下の力持ちならぬ、この展示を全力で支える床下にも潜りこむことが可能です。これからご観覧の方は是非ともツアーのご参加をおすすめします。


「フロアランドスケープ」床下

また会期末が迫っていますが、トークセッション他、朝食とトークがセットになったという「朝食風景」などというユニークな企画も行われています。詳細については展覧会サイトをご参照下さい。

「北川貴好:フロアランドスケープ」関連企画 *「事務局通信」(ブログ)では朝食風景の様子もアップされています。


会場のスーパードライホール

入場は500円です。2月5日まで開催されています。

「北川貴好:フロアランドスケープ」 アサヒ・アートスクエア@AsahiArtSquare
会期:1月14日(土)~2月5日(日)
休館:毎週火曜日、および1月29日(日)。
時間:11:00~19:00
住所:墨田区吾妻橋1-23-1 スーパードライホール4階
交通:東京メトロ銀座線浅草駅4、5番出口より徒歩5分。都営浅草線本所吾妻橋駅A3出口より徒歩6分。東武線浅草駅より徒歩6分。
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