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「今和次郎 採集講義展」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「今和次郎 採集講義展」
1/14-3/25



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「今和次郎 採集講義展」へ行ってきました。

突然ですが「考現学」という言葉をご存知でしょうか。

実はこれこそが考古学に対して現在、つまりは我々の前にある生活の事象を観察、記録し、採集する学問に他なりませんが、それを昭和初期に提唱したのが今回の主人公である今和次郎(こん・わじろう)というわけです。


街中の今和次郎

今和次郎は1888年、青森県弘前市に生まれ、柳田國男らのつくった民家研究の「白芽会」に参加しながら、農村や都市の人々の生活に目を向け、日常を考察する生活学や服装研究の分野で大きな足跡を残しました。

展示は農村の民家から始まります。和次郎は先にも触れた「白茅会」に参加し、北は北海道から南は鹿児島、さらには満州や朝鮮半島など約90箇所の民家を巡り、その様子を事細かに記録しました。


「雪に埋れる山の村の家(新潟県中頸城郡関川)」1917年

ここで登場するのがスケッチです。ともかく和次郎は民家のスケッチを無数に残しています。各地を巡った行程を絵日記風に残し、また民家では断面図から図面、それに集落の俯瞰図までを描いています。

「日本の民家/今和次郎/岩波文庫」

その集大成となったのが著書「日本の民家」ですが、ともかく重要なのは和次郎が民家を単なる建築物としてだけ捉えていたのではなく、そこに住む人々の生活、つまりは暮らしの有り様までを見ようとしていたことです。

たとえばとある民家の調査スケッチでは「小さい男の子が女の子に蝉を捕っている。」などとまで記しています。

和次郎は様々な暮らしを「ひろい心でよくみる」ように心がけ、そこから新たな暮らしを創り上げようとしていました。


「配列された植木鉢(東京府西多摩郡日原)」1922年

さてその民家研究のスケッチでも和次郎の細微な部分までを観察する視点を伺うことが出来ますが、そのいわば究極的な形として結実したのが「路傍採集」であり、また「考現学」です。

「路傍採集」では民家の軒先の雨樋の装飾までを分類、記録していた他、日常を徹底して観察した「風俗調査」では、実に細かに人々の生活を見据えています。

和次郎は関東大震災をきっかけに都市に強い関心を抱き、東京でも活動を始めましたが、たとえば銀座の街角では歩いている人の持ち物や髭の有無、さらには煙草をくわえている人、そしてその持っている手は右か左かというところまでをつぶさに観察しています。


今和次郎・吉田謙吉「銀座のカフェー服装採集1」1926年

またその他にも、列車の中の旅客の持ち物、また学生の服装の破れている箇所、さらにはなんと毎日通っていた食堂の茶碗の割れ方までをも分析して記録に残しています。

和次郎はこうした今の生活の記録を「考現学」と称したわけですが、ともかくもその個性的な視点、また徹底した観察眼には、終始驚かされるばかりでした。

さて和次郎の功績としてもう一つ重要なのが建築設計の仕事です。そもそも和次郎は20代の頃に助手を助手をつとめて以来、晩年に至るまで早稲田の建築学科の教授として教壇に立ち続けました。

設計の一例として挙げられるのが「東京帝国大学セツルメントハウス」です。セツルメントとはいわゆる社会的弱者に対する支援運動を意味しますが、和次郎はその拠点となる施設をつくりました。

また彼は東北の雪害対策として農水省が設立した機関、「積雪地方農村経済研究所」の庁舎も手がけます。また他には約20件ほどの住宅も設計し、内装のデザインなどと幅広く仕事をこなしました。


「渡辺甚吉邸の椅子」1934年頃 早稲田大学理工学術院創造理工学部蔵

展示では和次郎が手がけたチューダー朝のインテリアも紹介されています。ドアノブ、それにフォークやフォークといった食器も洒落ていました。

ともかく聞き慣れない「考現学」ということで、やや取っ付きにくいと思う方も多いかもしれませんが、それは本展を見れば杞憂に過ぎないことがお分かりいただけるに違いありません。

親しみやすいスケッチをはじめ、建築模型や図面、それに映像など、かなり分かりやすい形にて、その知られざる今和次郎の業績を紹介しています。こじんまりしながらも、いつも手堅く見せる汐留ミュージアムの展示センスが光っていました。

考現学についてはちくま書房から入門書が出版されているそうです。

「考現学入門/今和次郎 (著)、藤森照信 (編集)/ちくま文庫」

こちらもあわせて読んでみようと思います。

「今和次郎 採集講義/青幻舎」

3月25日までの開催です。これはおすすめします。

「今和次郎 採集講義展」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:1月14日(土)~3月25日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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