都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「バーン=ジョーンズ展」 三菱一号館美術館
三菱一号館美術館
「バーン=ジョーンズ展 装飾と象徴」
6/23-8/19

三菱一号館美術館で開催中の「バーン=ジョーンズ展」へ行って来ました。
英雄ペルセウスに聖ゲオルギウス、ピグマリオンにいばら姫と、古代ギリシャ物語や中世文学などのモチーフを取り入れ、19世紀末のヴィクトリア朝絵画の頂点を築いたバーン=ジョーンズ(1833-98)。
その耽美な画風には大いに惹かれるところですが、断片的に作品に接することはあれども、まとまった形で見る機会は一度もありませんでした。

エドワード=バーン=ジョーンズ「フローラ」1868-84年 郡山市立美術館
まさにイギリス美術ファン待望の展覧会です。
世界屈指とも言われるバーミンガム美術館のコレクションを中心に、国内外より集められたバーン=ジョーンズの絵画、資料、全75点が一堂に会していました。
冒頭はバーン=ジョーンズの制作の出発点、定番のギリシャ物語からアーサー王、モリスの長編詩などのモチーフが扱われます。
中でも圧巻なのは彼が終生手離さなかったという物語集、ディグビの「騎士道の誉」に基づく「慈悲深き騎士」です。

エドワード=バーン=ジョーンズ「慈悲深き騎士」1863年 バーミンガム美術館
教会にて木造のキリストが騎士へ祝福を与えるというこの主題、全体を覆うグリーンの美しさに目を奪われますが、甲冑の光沢感、周囲の幻想的なまでの草花など、早くも画家の魅力を味わえる作品だと言えるのではないでしょうか。
またバーン=ジョーンズとは切っても切り離せない関係にあるモリスの最初の物語詩、「クピドとプシュケ」の主題による「怠惰の戸口の前の巡礼」も力作です。
彼らは同じオックスフォード大学の学生時代、一緒になってチョーサーを読んだというエピソードも残っているそうですが、そこから一話、モリスに依頼されてデザインを手がけた「巡礼を導く愛」のタペストリーも見どころの一つとなりそうです。
さて得意とする英雄物語ではまず聖ゲオルギウスが圧巻です。
異教を象徴するという龍にまたがり、剣と槍を刺しこんで退治する「闘い:龍を退治する聖ゲオルギウス」の迫力、とりわけ剣が龍の口を突いて血の滴る様の生々しさは一種、異様ではないでしょうか。
実はバーン=ジョーンズは画家になる前、聖職を志していたそうですが、この真に迫る描写も、何かそうした面と関係するのかもしれません。

エドワード=バーン=ジョーンズ「大海蛇を退治するペルセウス」1882年頃 サウサンプトン市立美術館
ハイライトはペルセウスとして問題ありません。
政治家の新居の装飾な基づく2点、「メドゥーサの死 連作ペルセウス」と「果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス」は、その動的でかつドラマティックな描写に思わず打ちのめされてしまいます。
メデューサの首を仕留めるペルセウスを描いたのが「メドゥーサの死 連作ペルセウス」です。

エドワード=バーン=ジョーンズ「メドゥーサの死」1882年 サウサンプトン市立美術館
縦長の構図を最大限に活かし、今にも飛び上がろうとするペルセウスを躍動感のある様で表現しています。
チラシ表紙にも掲げられた「果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス」では、ともかくペルセウスへとぐろを巻いて絡みつく怪物の描写に驚かされるのではないでしょうか。
左手で怪物を抑えながら、剣を突こうとするペルセウス、その怪物と渾然一体となった濃密な空間には全く隙がありません。
なおこのペルセウス主題でらチョークを使った甲冑の習作も魅力的です。その劇的な描写はそれこそ明日、7/4に、東京新聞で高橋館長との紙上対談が掲載される荒木飛呂彦のジョジョ風。またそちらも興味深い内容となりそうです。
さてぐっと抑えられた照明に美しく浮かび上がるのは、バーン=ジョーンズの題材でもとりわけ重要だという「眠り姫」から「眠り姫 連作いばら姫」です。

エドワード=バーン=ジョーンズ「眠り姫」 1872-74年頃 ダブリン市立ヒュー・レイン美術館
横たわって眠りこける女性はそれこそオフェイリアの姿も連想させますが、周囲の野ばらなどの草の細密な表現からも目が離せません。
また画家に特徴的な衣服やシーツの彫の深い陰影も際立ちます。永遠を象徴する砂時計を枕元に掲げて眠りこける女性の甘美な姿には見惚れてしまいました。
なおバーン=ジョーンズはイタリアに憧憬を抱いていて、実際に何度か旅をした他、特にボッティチェリやミケランジェロを讃美していたことでも知られています。

エドワード=バーン=ジョーンズ「運命の車輪」1871-85年 ナショナル・ギャラリー・オヴ・ヴィクトリア
それこそ優美な女性はボッティチェリを、また一転して「運命の車輪」などにおける隆々たる肉体美はミケランジェロを思わせはしないでしょうか。
例えばイギリスの伝統的な物語を多く取り入れた主題だけでなく、絵画表現上において彼が如何なる方向を目指していたのかを見るのも面白いかもしれません。
さて展覧会のラストを飾るのも永遠の眠りです。
バーン=ジョーンズが晩年に描いたこの「聖杯堂の前で見る騎士ランスロットの夢」、眠りこける騎士ランスロットは画家自身の姿とも重なります。
寒々しいまでの木々、そして奥の暗がり、また後ろを向いて佇む馬など、どことなく寂しげな光景は、まさに夢幻の世界ではないでしょうか。
「眠りこそ聖なる永遠性の象徴。」(図録より引用。) としていたバーン=ジョーンズは、この作品を描いた2年後、65歳の生涯を閉じました。
初めに「まとまって見る機会は一度もない。」と書きましたが、それもそのはず、実は本展こそ日本初の画家回顧展だそうです。

エドワード=バーン=ジョーンズ(原画)/モリス商会(制作)「東方の三博士の礼拝」1894年(原画:1888年) マンチェスター・メトロポリタン大学
しかしながら意外や意外、まだ会期早々だからなのか、館内は思いの外に空いています。多岐に渡る主題を整理し、充実した作品で画業を辿る回顧展、もうしばらくは望めそうもありません。
「もっと知りたいバーン=ジョーンズ/東京美術」
8月19日までの開催です。断然におすすめします。
「バーン=ジョーンズ展 装飾と象徴」 三菱一号館美術館
会期:6月23日(土)~8月19日(日)
休館:毎週月曜。祝日の場合は翌火曜休館。(但し8月13日は開館。)
時間:10:00~18:00(火・土・日・祝)、10:00~20:00(水・木・金)
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
「バーン=ジョーンズ展 装飾と象徴」
6/23-8/19

三菱一号館美術館で開催中の「バーン=ジョーンズ展」へ行って来ました。
英雄ペルセウスに聖ゲオルギウス、ピグマリオンにいばら姫と、古代ギリシャ物語や中世文学などのモチーフを取り入れ、19世紀末のヴィクトリア朝絵画の頂点を築いたバーン=ジョーンズ(1833-98)。
その耽美な画風には大いに惹かれるところですが、断片的に作品に接することはあれども、まとまった形で見る機会は一度もありませんでした。

エドワード=バーン=ジョーンズ「フローラ」1868-84年 郡山市立美術館
まさにイギリス美術ファン待望の展覧会です。
世界屈指とも言われるバーミンガム美術館のコレクションを中心に、国内外より集められたバーン=ジョーンズの絵画、資料、全75点が一堂に会していました。
冒頭はバーン=ジョーンズの制作の出発点、定番のギリシャ物語からアーサー王、モリスの長編詩などのモチーフが扱われます。
中でも圧巻なのは彼が終生手離さなかったという物語集、ディグビの「騎士道の誉」に基づく「慈悲深き騎士」です。

エドワード=バーン=ジョーンズ「慈悲深き騎士」1863年 バーミンガム美術館
教会にて木造のキリストが騎士へ祝福を与えるというこの主題、全体を覆うグリーンの美しさに目を奪われますが、甲冑の光沢感、周囲の幻想的なまでの草花など、早くも画家の魅力を味わえる作品だと言えるのではないでしょうか。
またバーン=ジョーンズとは切っても切り離せない関係にあるモリスの最初の物語詩、「クピドとプシュケ」の主題による「怠惰の戸口の前の巡礼」も力作です。
彼らは同じオックスフォード大学の学生時代、一緒になってチョーサーを読んだというエピソードも残っているそうですが、そこから一話、モリスに依頼されてデザインを手がけた「巡礼を導く愛」のタペストリーも見どころの一つとなりそうです。
さて得意とする英雄物語ではまず聖ゲオルギウスが圧巻です。
異教を象徴するという龍にまたがり、剣と槍を刺しこんで退治する「闘い:龍を退治する聖ゲオルギウス」の迫力、とりわけ剣が龍の口を突いて血の滴る様の生々しさは一種、異様ではないでしょうか。
実はバーン=ジョーンズは画家になる前、聖職を志していたそうですが、この真に迫る描写も、何かそうした面と関係するのかもしれません。

エドワード=バーン=ジョーンズ「大海蛇を退治するペルセウス」1882年頃 サウサンプトン市立美術館
ハイライトはペルセウスとして問題ありません。
政治家の新居の装飾な基づく2点、「メドゥーサの死 連作ペルセウス」と「果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス」は、その動的でかつドラマティックな描写に思わず打ちのめされてしまいます。
メデューサの首を仕留めるペルセウスを描いたのが「メドゥーサの死 連作ペルセウス」です。

エドワード=バーン=ジョーンズ「メドゥーサの死」1882年 サウサンプトン市立美術館
縦長の構図を最大限に活かし、今にも飛び上がろうとするペルセウスを躍動感のある様で表現しています。
チラシ表紙にも掲げられた「果たされた運命:大海蛇を退治するペルセウス」では、ともかくペルセウスへとぐろを巻いて絡みつく怪物の描写に驚かされるのではないでしょうか。
左手で怪物を抑えながら、剣を突こうとするペルセウス、その怪物と渾然一体となった濃密な空間には全く隙がありません。
なおこのペルセウス主題でらチョークを使った甲冑の習作も魅力的です。その劇的な描写はそれこそ明日、7/4に、東京新聞で高橋館長との紙上対談が掲載される荒木飛呂彦のジョジョ風。またそちらも興味深い内容となりそうです。
さてぐっと抑えられた照明に美しく浮かび上がるのは、バーン=ジョーンズの題材でもとりわけ重要だという「眠り姫」から「眠り姫 連作いばら姫」です。

エドワード=バーン=ジョーンズ「眠り姫」 1872-74年頃 ダブリン市立ヒュー・レイン美術館
横たわって眠りこける女性はそれこそオフェイリアの姿も連想させますが、周囲の野ばらなどの草の細密な表現からも目が離せません。
また画家に特徴的な衣服やシーツの彫の深い陰影も際立ちます。永遠を象徴する砂時計を枕元に掲げて眠りこける女性の甘美な姿には見惚れてしまいました。
なおバーン=ジョーンズはイタリアに憧憬を抱いていて、実際に何度か旅をした他、特にボッティチェリやミケランジェロを讃美していたことでも知られています。

エドワード=バーン=ジョーンズ「運命の車輪」1871-85年 ナショナル・ギャラリー・オヴ・ヴィクトリア
それこそ優美な女性はボッティチェリを、また一転して「運命の車輪」などにおける隆々たる肉体美はミケランジェロを思わせはしないでしょうか。
例えばイギリスの伝統的な物語を多く取り入れた主題だけでなく、絵画表現上において彼が如何なる方向を目指していたのかを見るのも面白いかもしれません。
さて展覧会のラストを飾るのも永遠の眠りです。
バーン=ジョーンズが晩年に描いたこの「聖杯堂の前で見る騎士ランスロットの夢」、眠りこける騎士ランスロットは画家自身の姿とも重なります。
寒々しいまでの木々、そして奥の暗がり、また後ろを向いて佇む馬など、どことなく寂しげな光景は、まさに夢幻の世界ではないでしょうか。
「眠りこそ聖なる永遠性の象徴。」(図録より引用。) としていたバーン=ジョーンズは、この作品を描いた2年後、65歳の生涯を閉じました。
初めに「まとまって見る機会は一度もない。」と書きましたが、それもそのはず、実は本展こそ日本初の画家回顧展だそうです。

エドワード=バーン=ジョーンズ(原画)/モリス商会(制作)「東方の三博士の礼拝」1894年(原画:1888年) マンチェスター・メトロポリタン大学
しかしながら意外や意外、まだ会期早々だからなのか、館内は思いの外に空いています。多岐に渡る主題を整理し、充実した作品で画業を辿る回顧展、もうしばらくは望めそうもありません。

8月19日までの開催です。断然におすすめします。
「バーン=ジョーンズ展 装飾と象徴」 三菱一号館美術館
会期:6月23日(土)~8月19日(日)
休館:毎週月曜。祝日の場合は翌火曜休館。(但し8月13日は開館。)
時間:10:00~18:00(火・土・日・祝)、10:00~20:00(水・木・金)
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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