「伊東深水 南方風俗スケッチ展」 市川市芳澤ガーデンギャラリー

市川市芳澤ガーデンギャラリー
「伊東深水 南方風俗スケッチ展~市川市収蔵作品より」
6/16-7/22



芳澤ガーデンギャラリーで開催中の「伊東深水 南方風俗スケッチ展」へ行ってきました。

近代日本画の巨匠、伊東深水の真骨頂といえば艶やかな美人画に他なりませんが、素描や水彩の優品をまとめて見る機会は意外と少なかったかもしれません。

深水は1943年から約4ヶ月間、海軍報道班員としてインドネシアやシンガポールへ赴き、そこで現地の風俗を捉えた素描を多数描きました。

本展はそのような深水の南方でのスケッチのみに焦点を当てています。



出品数は110点。ワンフロアのみの小さなスペースですが、思いの外に見応えがありました。

作品は時系列、ようは深水が廻った土地、島の順に並んでいます。



現地の風俗、特に建物や暮らしをよく伝える作品の一例として「マッカサル郊外にて写」(昭和18年)が挙げられるのではないでしょうか。

マッカサル郊外、水辺の上の高床式の住居を描いていますが、エメラルドグリーンの水面しかり、深水の優れた水彩表現を伺うことも出来ます。



また花のスケッチも南国ならではの鮮やかな色を伝えてくれます。

女性の肖像など、人物を捉えたスケッチには、いかにも深水らしいアクの強いタッチもありましたが、こうした風景などからは本画とは異なるあっさりとした表現を見ることが出来ました。

さて興味深いのが、深水が先住民の人々の様態を写した作品です。



中でも山岳地帯に生活の基盤を持つトラジャ族を捉えたスケッチには目を奪われます。

またここで重要なのは深水がそうした人々についての印象を言葉に残していることです。

これはトラジャ族に限りませんが、例えば衣装の色や生地、それに舟の積荷、さらには祭りの様子などを、事細かに記しています。

もちらんそれらには時にオリエンタリズム的な視点も交じるわけですが、深水がどのように南方を捉えていたのが分かる資料として重要かもしれません。

さて今回の目玉というべきなのがスケッチと絵葉書の比較です。

つまり深水が描いたスケッチと、それ元に制作された当時の軍事郵便葉書があわせて展示されています。

その数は5点。これまでに他の展覧会で葉書とスケッチがバラバラに展示されたことはありましたが、今回のように見比べられる形での公開は初めてです。

さりげなく史上始めての比較展示、ここはじっくりと楽しみました。

最後には他の島々とは明らかに風俗の異なるバリが登場します。



バロンの踊りの奇抜な衣装に仮面、そして鮮烈な色自体も深水に強い印象を与えたのではないでしょうか。

ちなみに深水は4ヶ月の滞在中、約400枚のスケッチを描きましたが、うち270枚ほどをここ市川市が所蔵しています。

深水と市川との直接的な関係はなく、あくまでも深水の訪れたスマトラのメダンが姉妹都市であることから収集が始まったそうですが、近代日本画好きにとっては嬉しい企画と言えそうです。



7月22日まで開催されています。

*図版はいずれも伊東深水「南方風俗スケッチ」(1943年)より。

「伊東深水 南方風俗スケッチ展~市川市収蔵作品より」 市川市芳澤ガーデンギャラリー
会期:6月16日(土)~7月22日(日)
休館:月曜日(7/16は開館、7/17は休館)
時間:9:30~16:30
住所:千葉県市川市真間5-1-18
交通:JR線市川駅より徒歩16分、京成線市川真間駅より徒歩12分。*市川駅北口に「市営無料レンタサイクル」(市川第6駐輪場)あり。
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