都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「生誕120年 宮芳平展」 練馬区立美術館
練馬区立美術館
「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」
9/15-11/24
練馬区立美術館で開催中の「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」の特別内覧会に参加してきました。
森鴎外の知遇を得て、小説「天龍」のモデルともなった画家、宮芳平(みや よしへい。1893-1971。)。中村彝に学び、画家としての成功を目指しながらも、美術教師の職を得て、子供たちに絵を教えつつ、市井の画家として生きた。
彼の名と作品は必ずしもよく知られていないかもしれません。
その宮の生誕120周年を記念したのが本展覧会です。初期から晩年の油画、素描、ペン画、そして銅版画まで。約200点もの作品にて画業を辿っています。
では早速、鴎外との関係から。出会ったのは宮がまだ20代の頃。東京美術学校に通っていた1914年、第3回文展に出品した「椿」が落選したことに始まります。
宮芳平「椿」1914年 安曇野市豊科近代美術館
宮はこの「椿」に大変自信を持っていたため、落選理由を聞くために、審査委員であった森鴎外を訪ねます。その際に鴎外は丁寧に対応。邪険にはしません。そしてさながら父親のように宮へ様々なアドバイスを行います。以来、二人の交流が始まりました。
それにしてもこの「椿」、文展の審査で「再三考の部」まで残ったそうですが、実に個性的でかつ異質。半ば点描的な筆致で女性が描かれていることは分かるものの、ほぼ光はなく、モチーフの全てが沈み込んでいる。ともかく暗鬱です。
右:宮芳平「聖夜」1916年 安曇野市豊科近代美術館
宮は画風を何度か変化させますが、若かりしき頃は、こうした象徴派とも幻想ともいえる作品を描いています。荒野にぽつんと一人佇む人物、そこからのびる長い影。「聖夜」の夢幻的な世界には惹かれました。
さて宮は美大卒業後、貧困の中、東京から柏崎、平塚へと転居。結局、中村彝の紹介により諏訪で美術教師の職を得ることになります。1923年のことです。彼はその後、35年間にわたって教職生活を送ります。そこで諏訪の風景や家族や教え子などの身近な人々を描き続けました。
宮芳平「諏訪湖(立石)より」1930年 安曇野市豊科近代美術館
柏崎以降、諏訪での制作を一言で語ることは出来ませんが、作品はともかく濃厚。かつての点描的な表現は影を潜め、筆致はより大胆、モチーフに色面が溶け合いながらせめぎあい、時にぶつかり合うかのような激しい作風へと変化します。
左:宮芳平「雪解くる頃」1942-1949年 長野県岡谷東高等学校
細部をとってみればもはや抽象面ともいえるような平面。絵具もうねるように隆起し、支持体へとこびりついている。物質感も強烈です。
左:宮芳平「海 その2」1959年 安曇野市豊科近代美術館
これら一連のアクが強いまでの宮の作品、好き嫌いが大いに分かれるやもしれませんが、絵から発せられる何とも言い難い熱気、迫力には感じ入るものはありました。
中央:宮芳平「母と子 その1」1954年 茅野市美術館
晩年は宗教色を強めていきます。柏崎時代から聖書に親しんでいた宮は次第にキリスト教に傾倒。ついに1966年、77歳になった彼は悲願でもあった聖地巡礼の旅に出発。欧州から中近東を旅して歩きます。
宮芳平「ゴルゴダ」1970年 新潟県立近代美術館
これを反映して描かれたのが「聖地巡礼」シリーズ。宮の最後の到達点とも言うべき作品です。ここでも画家一流の濃密極まりない色面構成が強く押し出され、ルオー画を連想させるような世界が展開されています。
また宮は詩作をいくつも残していたとか。自らを「巡礼詩人、またの名を巡礼絵画き。」とも名乗っています。会場でも彼の言葉が随所に紹介されていました。
右:宮芳平「木」(ペン画)制作年不詳 安曇野市豊科近代美術館
油画とは一転してのペン画が思いの外に魅力的です。これらは宮が教職につく頃、生活の糧を得るために絵葉書の原画として描いたものとか。元々彼はフォーゲラーや夢二の挿絵などを好んでいたそうですが、作風も実に甘美でかつ繊細。詩情にも満ちていました。
「清浄く美しい足跡を残そう 雪の上を裸足で歩いて来たような足跡を。」宮芳平
「野の花として生くる。ー宮芳平画文集/求龍堂
求龍堂より刊行の画文集がまた良く出来ています。帯には鴎外とのエピソードからとられた一節、「おれの絵のどこが悪い?」。何者にも動じないような自画像の宮のイメージとも重なってか、実に挑戦的です。一般書籍の扱いでした。
宮芳平展会場風景
11月24日まで開催されています。
[巡回予定]
島根県立石見美術館 2013年12月21日~2014年2月24日
新潟県立近代美術館 2014年4月26日~6月1日
安曇野市豊科近代美術館 2014年7月19日~9月7日
「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」 練馬区立美術館
会期:9月15日(日)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し9月16日、9月23日、10月14日、11月4日は開館、翌日休館。
時間:10:00~18:00
料金:大人500円、大・高校生・65~74歳300円、中学生以下・75歳以上無料。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」
9/15-11/24
練馬区立美術館で開催中の「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」の特別内覧会に参加してきました。
森鴎外の知遇を得て、小説「天龍」のモデルともなった画家、宮芳平(みや よしへい。1893-1971。)。中村彝に学び、画家としての成功を目指しながらも、美術教師の職を得て、子供たちに絵を教えつつ、市井の画家として生きた。
彼の名と作品は必ずしもよく知られていないかもしれません。
その宮の生誕120周年を記念したのが本展覧会です。初期から晩年の油画、素描、ペン画、そして銅版画まで。約200点もの作品にて画業を辿っています。
では早速、鴎外との関係から。出会ったのは宮がまだ20代の頃。東京美術学校に通っていた1914年、第3回文展に出品した「椿」が落選したことに始まります。
宮芳平「椿」1914年 安曇野市豊科近代美術館
宮はこの「椿」に大変自信を持っていたため、落選理由を聞くために、審査委員であった森鴎外を訪ねます。その際に鴎外は丁寧に対応。邪険にはしません。そしてさながら父親のように宮へ様々なアドバイスを行います。以来、二人の交流が始まりました。
それにしてもこの「椿」、文展の審査で「再三考の部」まで残ったそうですが、実に個性的でかつ異質。半ば点描的な筆致で女性が描かれていることは分かるものの、ほぼ光はなく、モチーフの全てが沈み込んでいる。ともかく暗鬱です。
右:宮芳平「聖夜」1916年 安曇野市豊科近代美術館
宮は画風を何度か変化させますが、若かりしき頃は、こうした象徴派とも幻想ともいえる作品を描いています。荒野にぽつんと一人佇む人物、そこからのびる長い影。「聖夜」の夢幻的な世界には惹かれました。
さて宮は美大卒業後、貧困の中、東京から柏崎、平塚へと転居。結局、中村彝の紹介により諏訪で美術教師の職を得ることになります。1923年のことです。彼はその後、35年間にわたって教職生活を送ります。そこで諏訪の風景や家族や教え子などの身近な人々を描き続けました。
宮芳平「諏訪湖(立石)より」1930年 安曇野市豊科近代美術館
柏崎以降、諏訪での制作を一言で語ることは出来ませんが、作品はともかく濃厚。かつての点描的な表現は影を潜め、筆致はより大胆、モチーフに色面が溶け合いながらせめぎあい、時にぶつかり合うかのような激しい作風へと変化します。
左:宮芳平「雪解くる頃」1942-1949年 長野県岡谷東高等学校
細部をとってみればもはや抽象面ともいえるような平面。絵具もうねるように隆起し、支持体へとこびりついている。物質感も強烈です。
左:宮芳平「海 その2」1959年 安曇野市豊科近代美術館
これら一連のアクが強いまでの宮の作品、好き嫌いが大いに分かれるやもしれませんが、絵から発せられる何とも言い難い熱気、迫力には感じ入るものはありました。
中央:宮芳平「母と子 その1」1954年 茅野市美術館
晩年は宗教色を強めていきます。柏崎時代から聖書に親しんでいた宮は次第にキリスト教に傾倒。ついに1966年、77歳になった彼は悲願でもあった聖地巡礼の旅に出発。欧州から中近東を旅して歩きます。
宮芳平「ゴルゴダ」1970年 新潟県立近代美術館
これを反映して描かれたのが「聖地巡礼」シリーズ。宮の最後の到達点とも言うべき作品です。ここでも画家一流の濃密極まりない色面構成が強く押し出され、ルオー画を連想させるような世界が展開されています。
また宮は詩作をいくつも残していたとか。自らを「巡礼詩人、またの名を巡礼絵画き。」とも名乗っています。会場でも彼の言葉が随所に紹介されていました。
右:宮芳平「木」(ペン画)制作年不詳 安曇野市豊科近代美術館
油画とは一転してのペン画が思いの外に魅力的です。これらは宮が教職につく頃、生活の糧を得るために絵葉書の原画として描いたものとか。元々彼はフォーゲラーや夢二の挿絵などを好んでいたそうですが、作風も実に甘美でかつ繊細。詩情にも満ちていました。
「清浄く美しい足跡を残そう 雪の上を裸足で歩いて来たような足跡を。」宮芳平
「野の花として生くる。ー宮芳平画文集/求龍堂
求龍堂より刊行の画文集がまた良く出来ています。帯には鴎外とのエピソードからとられた一節、「おれの絵のどこが悪い?」。何者にも動じないような自画像の宮のイメージとも重なってか、実に挑戦的です。一般書籍の扱いでした。
宮芳平展会場風景
11月24日まで開催されています。
[巡回予定]
島根県立石見美術館 2013年12月21日~2014年2月24日
新潟県立近代美術館 2014年4月26日~6月1日
安曇野市豊科近代美術館 2014年7月19日~9月7日
「生誕120年 宮芳平展ー野の花として生くる。」 練馬区立美術館
会期:9月15日(日)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し9月16日、9月23日、10月14日、11月4日は開館、翌日休館。
時間:10:00~18:00
料金:大人500円、大・高校生・65~74歳300円、中学生以下・75歳以上無料。
住所:練馬区貫井1-36-16
交通:西武池袋線中村橋駅より徒歩3分。
注)写真は特別内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )