「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」 出光美術館

出光美術館
「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」 
11/3~12/16



出光美術館で開催中の「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」を見てきました。

「古くより不可分の存在」(解説より)であった文芸と絵画は、江戸時代になってさらに進化を遂げ、多くの作品を生み出しました。

そうした文芸をキーワードにしたのが、「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」で、主に館蔵品を中心とした文人画、琳派、浮世絵の作品が約50件ほど展示されていました。

冒頭からして蕪村の傑作が待ち構えていました。それが国宝の「夜色楼台図」で、雪がしんしんと降り積もった夜の町並みを表していました。既に雪は長く降っているのか、屋根はおろか、山々も白く染めていました。ほぼモノクロームながらも、窓から漏れる明かりを示すのか、建物には朱も加えられていて、人々の息遣いも見ることが出来ました。また空は完全に闇ではなく、雪の夜に特有の明るさをたたえていて、仄かな光をたくわえていました。蕪村は胡粉の白を下塗りし、その上から淡墨を施し、さらに濃墨を重ねることで、夜の雪雲を巧みに表しました。私も何度も目にした作品ですが、これほど情景の豊かな雪景色をほかに知りません。

なお近年、本作の題が中国の明代の詩の一節であることから、蕪村は北京の雪景色を、京都の東山に見えるように描いたと指摘されています。さらに画中で一番大きな楼閣を、蕪村も通った料亭に例え、その奥に、芸妓と雪見を楽しむ蕪村の姿を想像する向きもあるそうです。しばらく絵を眺めていると、いつしか中に入り込み、蕪村と同様に楼閣に立っては、雪景色を見渡しているような錯覚に陥りました。

蕪村と並び称する文人画の大家、池大雅では、「十二ヶ月離合山水図屏風」に惹かれました。十二ヶ月の四季の移ろいを、一幅一幅、独立した図に描いていて、「離合山水」の名が示すように、各幅を繋げると、一つの大画面として風景が立ち上がるように出来ていました。大らかな線と点、さらに淡い緑や青の色彩にて、野山や水辺を表していて、舟に乗る老人など、人の姿も見ることが出来ました。特に印象深いのは点の用い方で、それこそ細かに樹木の葉を象ったかと思えば、山の際などは、かなり粒の大きな点で示していて、大小に変化を付けて景色を表していることが良く分かりました。

琳派にも見逃せない作品がいくつかありました。その1つが伝宗達の「果樹花木図屏風」で、中央に緑の丘を描き、手前に柑橘類の樹木や椿、奥に朴などを描いていました。金地から丘、また金地、さらに奥へと至った、4つの場面の構成も特徴的で、丘の緩やかな曲線は、「蔦の細道図屏風」を思わせるかもしれません。

深江芦舟の「四季草花図屏風」も興味深い作品で、金地に土筆や蕨、躑躅に海堂など、四季の草花を表していました。そして金地は、黒に近い灰色と斑模様になっていましたが、これは何も金が剥落しているわけではなく、元に銀地を交錯させたからこそ表現でもあるそうです。今でこそ銀が変色していますが、制作当初は、金と銀とが共にまばゆい光を放っていたのではないでしょうか。極めて独特な光景が生み出されていました。

禅画では大雅の「瓢鯰図」が見逃せません。有名な如拙の「瓢鮎図」を、大津絵風に表していて、大津絵では猿は鯰を捕らえるところを、大雅は禅僧に置き換えて描きました。丸々とした鯰と禅僧、そして大きな瓢箪の姿は、大変に滑稽で、親しみ易さを感じる作品でもありました。

勝川春章の「美人鑑賞図」も目を引きました。11人の女性が、絵を鑑賞したり、軒先で談笑する姿を表していて、春章は、横幅120センチ超にも及ぶ、単体の美人画と異例の大きさの画絹に描きました。着物の鮮やかな色彩も鮮烈で、まさに華やかでかつ妖艶な光景と言えるかもしれません。

ラストは文晁に玉堂、そして岸駒に呉春、森狙仙でした。ここでは森狙仙の大作、「猿鹿図屏風」が目立っていましたが、私としてはもっと小さい玉堂の「籠煙惹滋図」の方に心惹かれました。色紙大サイズの小品ながらも、細かく、震えるような墨線で描いた山水の光景は、思いの外に雄大で、目を凝らして絵の中へ入り込めば込むほど、景色が臨場感をもって立ち上がってきました。山水の魅力が小画面に濃縮された一枚と呼んでも良いかもしれません。


作品と文芸との関係については、解説パネルなどで記載がありましたが、そもそも作品が想像以上に優品ばかりでした。土曜日の午後に出かけて来ましたが、館内は大変に余裕がありました。自由なペースで鑑賞出来ます。

蕪村の「夜色楼台図」は11月18日までの展示です。以降、休館日を挟み、11月20日からは同じく蕪村の「龍山落帽図」と「寿老四季山水図」が出展されます。それ以外の展示替えはありません。ご注意下さい。

12月16日まで開催されています。

「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」 出光美術館
会期:11月3日(土・祝)~12月16日(日)
休館:月曜日。但し月曜日が祝日および振替休日の場合は開館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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