都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」 目黒区美術館
目黒区美術館
「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」
10/13~12/6
目黒区美術館で開催中の「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」を見てきました。
1938年に生まれた村上友晴は、東京藝術大学の日本画科を卒業後、黒を基調とした絵画を制作し、独自の「静謐」な「精神世界」を築き上げました。*「」は解説より。
1階のエントランスからして黒の絵画が待ち構えていました。タイトルは「無題」で、まさに黒一色に塗り込められていましたが、よく見ると画肌は思いの外に分厚い上に力強く、まるで雲が湧くかのようにうごめいていました。素材は顔料と油彩で、1964年のグッゲンハイム国際展へ選抜された際に出品した作品でした。村上はかねてより黒の絵具を素材にしていて、筆を持つことはなく、終始、ペインティングナイフで絵具を置き、画面を構成してきました。
一方で絵具を用いることなく、鉛筆を素材にした紙の作品にも目がとまりました。例えば「無題」では、グレーを帯びた四角形が描かれているように見えましたが、近づくと極めて細く、断片的な線が無数に引かれていて、それが一面の形を浮き上がらせていました。
39歳でカトリックの洗礼を受けた村上は、日々に祈りを捧げるだけでなく、いわば絵画の制作の根幹としても、深くキリスト教を信仰しました。「psalm I 」した作品は、詩篇をテーマとしていて、小さな紙に黒い面を連ねていました。ほかにも「聖夜」など、キリスト教に関した作品がいくつも出展されていました。
いわゆる抽象ながらも、時折、何らかの景色が立ち上がって見えるのも、村上の制作の興味深い点かもしれません。黒が白とせめぎ合う「無題(礼文)」では、黒が海、白が氷を示した、流氷の海のようにも思えました。また黒とは一転して、赤を取り込んだ作品もありました。
端的に黒とはいえども、作品の表情は時に大きく異なっていて、一括りにすることは出来ません。画肌はフラットであったかと思うと、かなり凹凸のある作品もあり、見比べると、同じ黒にも関わらず、明度がかなり違って見えました。さらにアスファルトの表面を思わせるように荒々しい質感を伴っているなど、一言で「静謐」とは言い切れない、どこか熱気を帯びた作品もありました。
その際たるのが、赤と黒が拮抗した「無題」でした。まるでタールで強く塗りつぶしたように黒が広がる中、赤が炎のごとく立ち上がっていて、さも全てを焦がすようにうように、激しくぶつかり合っていました。ともかく大変な迫力で、しばらく画面から離れられないほどでした。
また1980年代後半、村上が度々参籠したとされる、東大寺二月堂の修二会をモチーフとした作品も、黒と赤がせめぎ合っていました。赤は修二会の松明を表すのか、まさしく燃えるように広がっていました。
ラストは比較的近年の紙の作品が紹介されていました。中央に油彩の「ICON」を置き、左右に紙の「十字架への道」を配した展示は、それこそ礼拝堂を思わせる空間で、一見、真っ白の「十字架への道」の中には、作家が細かに加えたであろう、手の痕跡が確かに刻まれていました。
一部のカーペットを剥がし、コンクリートむき出しの床を用いたり、幾つかに区切りを作っては、細かく展示室を分けるなど、会場内で変化する「景色」も魅惑的だったのではないでしょうか。これまでにも単発的に作品を見たことはありましたが、また一人、深く印象に残る画家と出会うことが出来ました。
村上はかねてより目黒区内に在住しているそうです。いわばご当地での展覧会でもあります。
12月6日まで開催されています。
「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」 目黒区美術館(@mmatinside)
会期:10月13日(土)~12月6日(木)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
*入館は17時半まで。
料金:一般800(600)円、大高生・65歳以上600(500)円、小中生無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」
10/13~12/6
目黒区美術館で開催中の「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」を見てきました。
1938年に生まれた村上友晴は、東京藝術大学の日本画科を卒業後、黒を基調とした絵画を制作し、独自の「静謐」な「精神世界」を築き上げました。*「」は解説より。
1階のエントランスからして黒の絵画が待ち構えていました。タイトルは「無題」で、まさに黒一色に塗り込められていましたが、よく見ると画肌は思いの外に分厚い上に力強く、まるで雲が湧くかのようにうごめいていました。素材は顔料と油彩で、1964年のグッゲンハイム国際展へ選抜された際に出品した作品でした。村上はかねてより黒の絵具を素材にしていて、筆を持つことはなく、終始、ペインティングナイフで絵具を置き、画面を構成してきました。
一方で絵具を用いることなく、鉛筆を素材にした紙の作品にも目がとまりました。例えば「無題」では、グレーを帯びた四角形が描かれているように見えましたが、近づくと極めて細く、断片的な線が無数に引かれていて、それが一面の形を浮き上がらせていました。
39歳でカトリックの洗礼を受けた村上は、日々に祈りを捧げるだけでなく、いわば絵画の制作の根幹としても、深くキリスト教を信仰しました。「psalm I 」した作品は、詩篇をテーマとしていて、小さな紙に黒い面を連ねていました。ほかにも「聖夜」など、キリスト教に関した作品がいくつも出展されていました。
いわゆる抽象ながらも、時折、何らかの景色が立ち上がって見えるのも、村上の制作の興味深い点かもしれません。黒が白とせめぎ合う「無題(礼文)」では、黒が海、白が氷を示した、流氷の海のようにも思えました。また黒とは一転して、赤を取り込んだ作品もありました。
端的に黒とはいえども、作品の表情は時に大きく異なっていて、一括りにすることは出来ません。画肌はフラットであったかと思うと、かなり凹凸のある作品もあり、見比べると、同じ黒にも関わらず、明度がかなり違って見えました。さらにアスファルトの表面を思わせるように荒々しい質感を伴っているなど、一言で「静謐」とは言い切れない、どこか熱気を帯びた作品もありました。
その際たるのが、赤と黒が拮抗した「無題」でした。まるでタールで強く塗りつぶしたように黒が広がる中、赤が炎のごとく立ち上がっていて、さも全てを焦がすようにうように、激しくぶつかり合っていました。ともかく大変な迫力で、しばらく画面から離れられないほどでした。
また1980年代後半、村上が度々参籠したとされる、東大寺二月堂の修二会をモチーフとした作品も、黒と赤がせめぎ合っていました。赤は修二会の松明を表すのか、まさしく燃えるように広がっていました。
ラストは比較的近年の紙の作品が紹介されていました。中央に油彩の「ICON」を置き、左右に紙の「十字架への道」を配した展示は、それこそ礼拝堂を思わせる空間で、一見、真っ白の「十字架への道」の中には、作家が細かに加えたであろう、手の痕跡が確かに刻まれていました。
【開催中】「村上友晴 ― ひかり、降りそそぐ」12月6日(木)まで開催中です。日本を代表する現代作家、村上友晴。目黒区美術館が所蔵する村上の初期から代表作を中心に新作を加えて構成し、作品に向き合う村上の、祈りにもたとえられる深い精神世界を紹介していきます。https://t.co/22ap8yezdy pic.twitter.com/JwAnq5gt8j
— 目黒区美術館 (@mmatinside) 2018年10月14日
一部のカーペットを剥がし、コンクリートむき出しの床を用いたり、幾つかに区切りを作っては、細かく展示室を分けるなど、会場内で変化する「景色」も魅惑的だったのではないでしょうか。これまでにも単発的に作品を見たことはありましたが、また一人、深く印象に残る画家と出会うことが出来ました。
村上はかねてより目黒区内に在住しているそうです。いわばご当地での展覧会でもあります。
12月6日まで開催されています。
「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」 目黒区美術館(@mmatinside)
会期:10月13日(土)~12月6日(木)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
*入館は17時半まで。
料金:一般800(600)円、大高生・65歳以上600(500)円、小中生無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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