都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『Viva Video! 久保田成子展』 東京都現代美術館
東京都現代美術館
『Viva Video! 久保田成子展』
2021/11/13〜2022/2/23
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東京都現代美術館で開催中の『Viva Video! 久保田成子展』を見てきました。
1937年に生まれた久保田成子は、映像と彫刻を組み合わせたヴィデオ彫刻を手がけると、ヴィデオ・アートの先駆者として評価されてきました。
その久保田の約30年ぶりとなる大規模な個展が『Viva Video! 久保田成子展』で、代表的なヴィデオ彫刻のみならず、初期のフルクサスの活動などを示す資料や作品が展示されていました。
まず初めに並んでいたのは、若き久保田の活動を示す資料や写真などで、東京で前衛美術のコミュニティに参加した経緯やハイレッド・センターでの活動、また夫となるナムジュン・パイクとの関係などが紹介されていました。
また久保田が1964年に渡米して以降、フルクサスでの制作やパイクとの共同生活からヴィデオを用いた作品を手がけたことについても丹念に追っていて、とりわけフルクサスのイベントとして行われた『ヴァギナ・ペインティング』の写真などは衝撃的ですらありました。
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『デュシャンピアナ:マルセル・デュシャンの墓』 1972-75/2019年 久保田成子ヴィデオ・アート財団
主にカメラを用いてヴィデオ作品を制作してきた久保田は、映像に造形の要素を持たせたいと考えると、1975年には床から天井までテレビモニターを積み上げ、機械の部分を木の立体で覆った『デュシャンの墓』を発表して、ヴィデオ彫刻の制作に乗り出しました。
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『デュシャンピアナ:階段を降りる裸体』 1975-76/83年 富山県美術館
そしてデュシャンへのオマージュである『デュシャンピアナ:階段を降りる裸体』や『デュシャンピアナ:ドア』などにて高い評価を得ると、アメリカやヨーロッパを中心とする国際展にて招待されて注目を浴びました。
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『河』1979-81 年
1980年頃にデュシャンから離れ、山や河といった自然のモチーフを取り入れた久保田は、水を満たした水槽とモニターを組み合わせた『河』などを発表し、動きをともなうヴィデオ彫刻を制作するようになりました。
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『ナイアガラの滝』 1985/2021年
10台のモニターが組み込まれた『ナイアガラの滝』は、春夏秋冬のナイアガラの情景を映像に投影しつつ、手前のシャワーによって実際に水が落ちるように作られた作品で、滝の映像と水の流れがレイヤーのように折り重なっていました。
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『三つの山』 1976-79年 久保田成子ヴィデオ・アート財団
一連のヴィデオ彫刻で印象に深いのが、作品の前で静止して映像を見るのではなく、自由に周りを行き来しながら鑑賞できることでした。
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『河』 1979-81年
とりわけ先の『河』は、逆さ吊りになったモニターが、笹舟のような構造物の水面に映像を投影するように作られていて、あたかも舟の中を覗きこむようにすることで初めて映像を見ることができました。
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『韓国の墓』 1993年
『韓国の墓』は、夫のパイクの帰国に同行した際、久保田に強い印象を与えた墓をモチーフにした作品で、墓のかたちを模した構造物の中に墓参の様子などを映したモニターを組み込んでいました。
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『韓国の墓』 1993年
ちょうど茶碗をひっくり返したような半円の彫刻の表面には、鏡による突起物が付けられていて、プロジェクションによる効果もあってか、まるできらきらと輝く宇宙船を目にしているかのようでした。
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『スケート選手』 1991-92年
フィギュアスケート選手の伊藤みどりをモチーフにした『スケート選手』も目立っていたのではないでしょうか。いずれのヴィデオ彫刻とも、主にブラウン管のモニターを用いつつ、一見、アナログな構造でありながら、どこかSF的とも近未来的ともいえるような世界を築き上げているのも面白く思えました。
久保田は1996年、ホイットニー美術館での個展を控えるも、夫のパイクが脳梗塞に倒れたため、それまでと同じように制作に集中することができなくなってしまいました。
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しかし介護とパイクの展覧会をサポートしつつ、2000年には療養生活を主題とした作品を発表するなどして活動を続け、パイクの没後も自らの病気と闘いながら作品の制作や本の出版を行いました。
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『パイクから成子への手紙』(複写) 2001年 個人蔵
こうしたパイクとの関係をはじめとした、久保田の人生の歩みも浮かび上がる展示ではなかったでしょうか。1人のアーティストの活動を追うのに際して作品と資料に不足はありませんでした。
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『デュシャンピアナ:自転車の車輪1,2,3』 1983-90年 公益財団法人アルカンシエール美術財団/原美術館コレクション
なお『デュシャンピアナ:自転車の車輪1,2,3』と『ヴィデオ俳句―ぶら下がり作品』、および『スケート選手』に関しては作品保存の観点より、動作時間が限られていました。詳しくは美術館の公式サイトでご確認ください。
一部エリアの展示作品の撮影が可能でした。
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『Viva Video! 久保田成子展』展示風景
まもなく会期末です。2月23日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
『Viva Video! 久保田成子展』 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2021年11月13日(土)〜2022年2月23日(水・祝)
休館:月曜日。但し2022年1月10日、2月21日は開館。年末年始 (12月28日〜1月1日 )、1月11日。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400円、大学・専門学校生・65歳以上1000円、中高生600円、小学生以下無料。
*予約優先チケットあり。
*MOTコレクションも観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
『Viva Video! 久保田成子展』
2021/11/13〜2022/2/23
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東京都現代美術館で開催中の『Viva Video! 久保田成子展』を見てきました。
1937年に生まれた久保田成子は、映像と彫刻を組み合わせたヴィデオ彫刻を手がけると、ヴィデオ・アートの先駆者として評価されてきました。
その久保田の約30年ぶりとなる大規模な個展が『Viva Video! 久保田成子展』で、代表的なヴィデオ彫刻のみならず、初期のフルクサスの活動などを示す資料や作品が展示されていました。
まず初めに並んでいたのは、若き久保田の活動を示す資料や写真などで、東京で前衛美術のコミュニティに参加した経緯やハイレッド・センターでの活動、また夫となるナムジュン・パイクとの関係などが紹介されていました。
また久保田が1964年に渡米して以降、フルクサスでの制作やパイクとの共同生活からヴィデオを用いた作品を手がけたことについても丹念に追っていて、とりわけフルクサスのイベントとして行われた『ヴァギナ・ペインティング』の写真などは衝撃的ですらありました。
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『デュシャンピアナ:マルセル・デュシャンの墓』 1972-75/2019年 久保田成子ヴィデオ・アート財団
主にカメラを用いてヴィデオ作品を制作してきた久保田は、映像に造形の要素を持たせたいと考えると、1975年には床から天井までテレビモニターを積み上げ、機械の部分を木の立体で覆った『デュシャンの墓』を発表して、ヴィデオ彫刻の制作に乗り出しました。
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『デュシャンピアナ:階段を降りる裸体』 1975-76/83年 富山県美術館
そしてデュシャンへのオマージュである『デュシャンピアナ:階段を降りる裸体』や『デュシャンピアナ:ドア』などにて高い評価を得ると、アメリカやヨーロッパを中心とする国際展にて招待されて注目を浴びました。
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『河』1979-81 年
1980年頃にデュシャンから離れ、山や河といった自然のモチーフを取り入れた久保田は、水を満たした水槽とモニターを組み合わせた『河』などを発表し、動きをともなうヴィデオ彫刻を制作するようになりました。
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『ナイアガラの滝』 1985/2021年
10台のモニターが組み込まれた『ナイアガラの滝』は、春夏秋冬のナイアガラの情景を映像に投影しつつ、手前のシャワーによって実際に水が落ちるように作られた作品で、滝の映像と水の流れがレイヤーのように折り重なっていました。
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『三つの山』 1976-79年 久保田成子ヴィデオ・アート財団
一連のヴィデオ彫刻で印象に深いのが、作品の前で静止して映像を見るのではなく、自由に周りを行き来しながら鑑賞できることでした。
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『河』 1979-81年
とりわけ先の『河』は、逆さ吊りになったモニターが、笹舟のような構造物の水面に映像を投影するように作られていて、あたかも舟の中を覗きこむようにすることで初めて映像を見ることができました。
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『韓国の墓』 1993年
『韓国の墓』は、夫のパイクの帰国に同行した際、久保田に強い印象を与えた墓をモチーフにした作品で、墓のかたちを模した構造物の中に墓参の様子などを映したモニターを組み込んでいました。
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『韓国の墓』 1993年
ちょうど茶碗をひっくり返したような半円の彫刻の表面には、鏡による突起物が付けられていて、プロジェクションによる効果もあってか、まるできらきらと輝く宇宙船を目にしているかのようでした。
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『スケート選手』 1991-92年
フィギュアスケート選手の伊藤みどりをモチーフにした『スケート選手』も目立っていたのではないでしょうか。いずれのヴィデオ彫刻とも、主にブラウン管のモニターを用いつつ、一見、アナログな構造でありながら、どこかSF的とも近未来的ともいえるような世界を築き上げているのも面白く思えました。
久保田は1996年、ホイットニー美術館での個展を控えるも、夫のパイクが脳梗塞に倒れたため、それまでと同じように制作に集中することができなくなってしまいました。
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しかし介護とパイクの展覧会をサポートしつつ、2000年には療養生活を主題とした作品を発表するなどして活動を続け、パイクの没後も自らの病気と闘いながら作品の制作や本の出版を行いました。
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『パイクから成子への手紙』(複写) 2001年 個人蔵
こうしたパイクとの関係をはじめとした、久保田の人生の歩みも浮かび上がる展示ではなかったでしょうか。1人のアーティストの活動を追うのに際して作品と資料に不足はありませんでした。
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『デュシャンピアナ:自転車の車輪1,2,3』 1983-90年 公益財団法人アルカンシエール美術財団/原美術館コレクション
なお『デュシャンピアナ:自転車の車輪1,2,3』と『ヴィデオ俳句―ぶら下がり作品』、および『スケート選手』に関しては作品保存の観点より、動作時間が限られていました。詳しくは美術館の公式サイトでご確認ください。
昨年開催した「Viva Video! 久保田成子展」オンライントーク Vol.1の記録を公開しました。当館で開催中の本展と、ニューヨーク近代美術館で開催中の「Shigeko Kubota: Liquid Reality」展について企画者が、今なぜ久保田成子なのかなど話しました。⇒https://t.co/98ZIOhhL2r pic.twitter.com/rnsP1nwuRm
— 東京都現代美術館 (@MOT_art_museum) February 16, 2022
一部エリアの展示作品の撮影が可能でした。
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『Viva Video! 久保田成子展』展示風景
まもなく会期末です。2月23日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。
『Viva Video! 久保田成子展』 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2021年11月13日(土)〜2022年2月23日(水・祝)
休館:月曜日。但し2022年1月10日、2月21日は開館。年末年始 (12月28日〜1月1日 )、1月11日。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400円、大学・専門学校生・65歳以上1000円、中高生600円、小学生以下無料。
*予約優先チケットあり。
*MOTコレクションも観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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