見もの・読みもの日記

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蘆雪の虎に会いに/応挙蘆雪館

2006-08-08 12:28:00 | 行ったもの(美術館・見仏)
○応挙蘆雪館(和歌山県串本町)

 というわけで、「めはり寿司」の日曜日に戻る。土曜日に京博の『美のかけはし』と高麗美術館を見てしまったあと、日曜日は何の予定も入れていなかった。大阪に出てもいいし、滋賀もいいなあ、と考えながら、関西地方の地図を見ているうち、ふと蘆雪の虎を見にいけないかしら、と思い始めた。

 紀伊半島の南端、串本の無量寺に、長沢蘆雪の『虎図』があることを知ったのは、たぶん『日本美術応援団』(日経BP社, 2000)による。今にも画面から飛び出しそうな、子どもが大喜びしそうな、アニメーションみたいな虎。確か、2000年の『長澤蘆雪展』(千葉市美術館)に来ていたのだが、私は展示替えで見逃したのだ。しかし、蘆雪といえば、反射的に思い浮かぶのが、この『虎図』である。

 先日、プライスコレクション展で見た『軍鶏図』が、どうにも脳裡を離れないのだ。あの、やけに人間じみたふてぶてしさを思い出すと、不良に惹かれる優等生少女みたいな心境になってくる(70年代的)。うーん。蘆雪の傑作『虎図』が見たい! どうしても、今すぐ見たい!! 調べてみたら、京都を発って串本に行き、その日のうちに東京に戻ることは可能のようだ。ただし、肝腎の応挙蘆雪館が、雨の日は「半分しか」開けないと書いてある。これは運を天に任せるしかない。

 日曜当日は、願ってもない好天だった。京都駅から特急「くろしお」に乗り込む。これで、大阪→和歌山→南紀白浜と、紀伊半島の西半分をまわって、お昼前に串本に到着する。無量寺までは、車の少ない裏通りを歩いて5分ほど。山門を入るとすぐ、「応挙蘆雪館」の看板を掲げた建物があって、受付の女性が、展示室の灯りをつけてくれた。

 まず目に入ったのが淡彩の『鸚鵡図』。4枚ほどが並べてあったが、実際には8連作だそうだ。一目見て、笑みが込み上げてきた。かわいくないなあ。見るからに無頼派のオウムである。目を開いているんだか、いないんだか。いずれにせよ、人間なんてお構いなし、という感じ。でも、そこが魅力でもある。板に描かれた雁の図もよかった。

 それから、別棟の新館に案内される。ここに、もと本堂にあった40面余りの襖絵が収蔵されているのだが、雨の日は開放しないのだそうだ。以下「ネタバレ」を承知で読んでいただきたい。

 展示室は、本堂そのまま、3つの空間で構成されている。まず、左の間に入ると、左側面と正面の襖は、応挙の『波上群仙図』。右側面は蘆雪の『薔薇図』と呼ばれる作品だが、薔薇よりも、画面中央の3匹(かな?)の猫に注目が行ってしまう。これがかわいい! かわいいけれど、人間に媚びた様子はない。自然体で、いかにも猫らしい猫である。蘆雪って、猫好きだったんだろうなあ、と思う。

 この『猫図』、いや『薔薇図』の裏側は、中央の間である。そこで、フト思い至った。『日本美術応援団』で、赤瀬川さんと山下さんが「『虎図』の裏側に何が描かれているかは、行ってみた人だけのお楽しみ」と思わせぶりな発言をしていたことに。なるほど、なるほど、こういうことだったか、と嬉しく思いながら、中央の間にまわると、どーんと目に飛び込んでくるのが『虎図』。いやー感無量だった。お前に会いに来たのよ~!と、腕を広げて呼びかけたい気分。

 『虎図』の向かいが『龍図』(両者の間、正面奥に仏間があった)。それでは、『龍図』の裏には何が描かれているのだろうか? 右の間に進んで、笑ってしまった。なんと、仔犬がたくさんいるではないか。応挙ふうの丸々した仔犬である。しかし、応挙の純真無垢な仔犬に比べると、どことなく意地の悪い顔つき。もしかして、応挙は犬好きで、蘆雪は猫好きかな?

 何時間いても飽きそうになかったが、ほどよく気持ちが満たされたところで、切り上げることにした。入口で待っていてくれたおばさんにお礼を言って外に出たら、ちょうど細かい雨が降り始めた。駅まで走っていこうとしたら、ビニール傘を持たせてくれた。ご親切、ありがとうございました。それにしても、蘆雪いいなあ。しばらく応援していくことに決めたぞ。

 帰りは、和歌山→大阪経由で戻るほうが早かったのだが、あえて新宮行きの「くろしお」に乗り、名古屋行きの「南紀」に乗り換えるコースを選ぶ。車窓の変化が多くて面白かった。これで紀伊半島一周の完成である。

■無量寺の紹介:ただし、龍虎図の写真は応挙蘆雪館(旧館)にある複製。
http://www.ebisu-wabuka.com/muryoji.htm
コメント (3)
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