見もの・読みもの日記

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若冲の動植綵絵 ・第5期/三の丸尚蔵館

2006-08-17 23:06:14 | 行ったもの(美術館・見仏)
○三の丸尚蔵館 第40回展『花鳥-愛でる心、彩る技<若冲を中心に>』

http://www.kunaicho.go.jp/11/d11-05-06.html

 桜の季節に始まった若冲の『動植綵絵』シリーズも、いよいよ最後である。今回の出品は、『老松孔雀図』『芙蓉双鶏図』『薔薇小禽図』『群魚図(蛸)』『群魚図(鯛)』『紅葉小禽図』の6点。

 若冲以外は何が出ているのかな?とわくわくしながら、通い慣れた会場の入口をくぐった。目に入ったのは、大きな孔雀図。応挙だ、と反射的に思った。紅白の牡丹に雌雄の孔雀をあしらった、ゴージャスな『牡丹孔雀図』は、果たして応挙だった。その隣、余白の多い縦長の画面に、雌雄の孔雀だけを描いたシンプルな対幅は、森徹山の作品だった。長い尾羽を撥ね上げ、首を落として地面の1点を見つめるようなオスの孔雀。逆に頭を上げたメスの孔雀。それぞれ、意味ありげな目線が、人間くさい。

 対比するように並べられた若冲の『老松孔雀図』は、応挙や徹山の孔雀に比べると、はかなげで弱々しい(応挙の孔雀は、脚が太くて、力も強そう)。しかし、若冲作品の、孔雀を取り囲む松と牡丹には、妖しい生命力が脈動している感じがする。

 『芙蓉双鶏図』は、アクロバティックな逆立ちを決めた雄鶏を描く。華やかで、ケレンたっぷりで、一度見たら忘れられない作品である。しかし、私は、芙蓉の花卉の上に載っている、赤と青の小鳥が気になる。花は小鳥の重みを感じている気配もない。その「無重力感」がなんとも言えず、若冲っぽいと思う。それから、楽しい『群魚図』2点。蛸の上下を泳いでいる魚のピンク色がとてもきれい。ギャラリーからは、間をおかず「かわいい~」の声が漏れる。やっぱり若冲って「萌え」系だなあ。

 最後が『紅葉小禽図』。この作品は、本物を見て、ハッとするほど印象が変わった。写真図版では、紅葉の赤がどぎつくて重たい作品だと思っていた。実際は、赤色が意外と薄くて、下地が透けている。さらに、写真では分かりにくいが、左上から斜めに射し込む光が描かれていて、ひろびろした空間、気持ちよく透んだ秋の空気を感じさせる。よく見ると、1枚だけ、まさに枝を離れて舞い落ちる紅葉によって、画面の中で「時間」が動き出している。紅葉の下に描かれた流水の音まで聴こえてくるようだ。

 『動植綵絵』は、もと、釈迦三尊像を荘厳するために描かれたというが、斜めに射し込む光の先には、如来の姿があるのかも知れない。余韻嫋々として、『動植綵絵』30幅の末尾を飾るに、ふさわしい作品だと思う。「歌仙」の挙句みたいでもある。
コメント (1)
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