見もの・読みもの日記

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譜代大名の反乱/落下傘学長奮闘記(黒木登志夫)

2009-04-09 00:20:02 | 読んだもの(書籍)
○黒木登志夫『落下傘学長奮闘記:大学法人化の現場から』(中公新書ラクレ) 中央公論新社 2009.3

 著者は、もと東京大学医科学研究所教授。基礎医学の門外漢には『科学者のための英文手紙の書き方』(1984年刊)の著者と聞いて、かすかに思い当たる名前である。40年間、「がんの基礎研究だけをやってきた」「大学の管理運営や教育など、研究者がやるものではないと」思っていた(正直者w)著者が、ひょんなことから、2001~2008年、岐阜大学の学長をつとめることになる。このあまりにも意外な人事を、著者は自ら、映画『史上最大の作戦』の落下傘部隊になぞらえて語る。

 いや~オモシロイ。学長就任直後の2001年6月、国大協総会の「学長会議」で、後に「遠山プラン」と呼ばれる大学改革方針が文科省から示された。「今になって考えると」これは、小泉内閣の構造改革から国立大学を守るために文科省が仕掛けた「攻撃的防衛」あるいは「防衛的攻撃」であった、と著者は分析している。しかし、当座のショックと混乱は大きかった。全国の国立大学の混乱ぶりと、混乱に見せかけた老獪なかけひき(!)は、戦国時代か封建時代さながらの面白さがある。いや、著者自身、この会議を「全国の大名を江戸城に集めて行われる譜代大名の会議のようなもの」に見立てている。

 2004年4月、全ての国立大学が国立大学法人となった。と言っても、国立大学と無縁の人々には、何が起きたか全く分からないだろう。私は、当時、国立大学の末端の一職員だったが、本書を読んで初めて、自分の身に起きたことの意味が、あ~そういうことだったのか、と分かったように思った。

 その後も「改革」は加速し、地方大学の財政的な危機は深まる。ショックだったのは、「経営改善係数」を押し付けられた附属病院の赤字が、大学の経営基盤を食いつぶす事態になっていること。また、大学間格差が広がり、「東大一人勝ち」の形勢は日に日に強まっているということ。国大協のロゴマーク()の右側の高い台形が黒字経営の旧帝大、左側の低い台形が赤字のその他の大学を表すのではないか、という皮肉には爆笑した。本書は、日本の高等教育の危機を真剣に憂慮しつつも、不慣れな学長としてこの事態に立ち会うことになった自分の不運(?)を、どこか突き放した視点で眺めており、つねに辛口の乾いたユーモアが漂っている。

 財務省、文部科学省、事務局、学内部局、国大協、職員組合、そうしたものが、時には敵となり、時には味方ともなる摩訶不思議な世界。「事務局」(とりわけ、移動官職)というものが、学長の目にどう映っているかというのは、個人的に非常に参考になった。大学人には絶対に面白い、大学人でなくても、たぶん面白い1冊だと思う。
コメント
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