〇『回来的女児』全12集(愛奇藝、2022年)
年末に見たもの。愛奇藝「迷霧劇場」の新作である。このシリーズは、2020年の諸作品が名作すぎて、どうしても点が辛くなってしまうが、本作はまあまあ合格点だと思った。以下【ネタバレあり】であらすじを紹介する。
舞台は、1997年、坂の多い田舎町である潭岭県(架空の町、広州に近いらしい)。李承天と廖穂芳の夫婦は、脳に障害のある息子・李文卓(20歳くらい)と暮らしていた。彼らには、もうひとり13年前に4歳で失踪したきりの李文文という娘がいた。ある日、夫婦のもとに李文文を名乗る少女が戻ってくる。彼女の正体は、孤児院を脱走してきた陳佑希。同じ孤児院で育った小秀が、李承天一家に文卓の保母兼家政婦として就職したが、少し前に姿を消してしまっていた。陳佑希は、親友の小秀の行方を探すべく、彼女から手紙で知らされた話をもとに、李文文に成りすまして、李承天一家に潜入したのである。ずっと小秀に憧れていた、ちょっと頼りない青年・程威も陳佑希に協力することになる。
やがて李承天一家の秘密が少しずつ明らかになっていく。妻の廖穂芳には、医薬品の販売等で成功した王重江という恋人がいた。李承天は、文卓が王重江の子供であると分かっていて、廖穂芳と結婚したのである。廖穂芳と王重江の関係が続いていることを、小秀は偶然知ってしまった。そして小秀から、妻の醜聞の口止め料を要求された李承天は、カッとなって小秀を殺してしまい、妻とともに遺体を始末した。もはや陳佑希が娘の李文文でないことに気づいた李承天は、そのように小秀の失踪の「真相」を語った。
全ての元凶は王重江であると説く李承天、その主張を受け入れた陳佑希と程威は、文卓を誘拐したことに見せかけ、復讐のため、王重江をおびき寄せる。一枚上手だった王重江は彼らの計略を見破り、廖穂芳につきまとい続けてきた李承天を𠮟りつける。陳佑希を守ろうとした程威は、王重江と揉み合いになり、王重江を殺害してしまった。李承天は、遺体を車ごと海に沈めて証拠隠滅を図ったが、数日後に発見されてしまう。
廖穂芳は王重江の死に不審なものを感じるが、最愛の息子・文卓を守るには、自分も夫も罪に問われるわけにはいかないと考えていた。李承天は、息子の将来を案じる妻の気持ちを利用して偽証を誘い、王重江殺害の罪を程威に着せようとする。しかし、ずっと事件を追ってきた警察官の程旭(程威の兄)はついに真相にたどりつく。
逮捕された李承天は、何とか死刑を回避し、いつか本当の娘の李文文が戻ってくるのを待ちたいと嘆願する。しかし李文文は、すでに13年前、強盗犯によって自宅で殺害されていた。現場を発見した廖穂芳は、幼い文卓が犯人ではないかと疑い、その遺体を隠していたのだった。絶望する李承天。やっぱり中国人にとっては、自分の血のつながる子供だけが本当の子供という意識が強いのかなと思った。救いようのない結末だが、いちおうドラマは、孤児院を卒業した陳佑希が開いた美容院を文卓が手伝っており、そこに刑期を終えた程威が訪ねてくるという、明るい未来を感じさせるシーンで終わる。
序盤で怖さ・胡散臭さ全開だった廖穂芳や王重江の印象が、気がつくと好転しているのと逆に、気の弱い優しいパパだった李承天が、じわじわと本性を現わしていくのが本作の見どころである。出演している俳優さんはみんな巧い。事件の根本は男女の不倫関係なのだが、妙に現代風にせず、いかにも90年代中国の片田舎のおじさん・おばさんに造型している(ファッションや髪型など)のが、味わい深かった。警官コンビの老彭(銭漪)と程旭(代旭)はどちらも好きな俳優さん。特に代旭さんが好きなので、程旭がんばれ~と応援しながら見ていた。なお、愛奇藝(iQIYI)では「戻ってきた娘の秘密」というタイトルで、日本語字幕版も同時公開されている。私は中文字幕版で視聴したが、すごい時代になったものだ。嬉しい。