見もの・読みもの日記

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中国青銅器の不思議な世界/不変/普遍の造形(泉屋博古館東京)

2023-01-29 22:54:55 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館東京 リニューアルオープン記念展IV『不変/普遍の造形-住友コレクション中国青銅器名品選』(2023年1月14日~ 2月26日)

 リニューアルオープン展の掉尾を飾る本展では「住友コレクションの象徴」とも言うべき、中国青銅器の名品を一挙公開。中国青銅器の種類、文様、金文、そして鑑賞の歴史まで、丁寧な解説を付してその魅力を紹介する。私は、年に数回は京都の泉屋博古館を訪ねているのだが、常設の青銅器館はパスしてしまうことが多い。せっかく東京に来てくれたので、罪滅ぼしと思って見に行ったら、展示規模(参考資料含め100件弱)がちょうどいいのと、解説が初心者にも分かりやすくて楽しめた。ほぼ全て撮影可なのも嬉しかった。

 はじめに、器の命名ルールを解説。銘文によって殷周時代当時の人々の命名が判明する器(自名器)は、その名前で呼ぶ。鼎(かなえ)や鬲(れき)などだ。一方、自名器がない器種は、後世の古典文献に登場する器の名前を与えることが多い。たとえば、現在「爵(じゃく)」と呼ばれる器をそのように名づけたのは北宋時代のことで、殷周時代当時の名称には不明な点が多く、古典文献中の「爵」は全く別の器を指している可能性も否定できないのだそうだ。

 パネルに「最近では古代中国を舞台にしたドラマやアニメに登場し、認知度はすこし高まってきているようだ」とあって、にやにやしてしまった。2017年の中国ドラマ『軍師聯盟(軍師連盟)』には、この爵に酒を満たし、直接、口をつけて飲むシーンがあって、あの使い方は違う、という指摘があったことを覚えている。展示解説によれば、近代になって、底部に煤が付着したものが出土したことで、爵は温酒器であるという説が一般化したそうだ。日本酒の燗瓶(かんびん)みたいなものかと思う。

 ちなみに「どのような酒を飲んだ?」というパネルによれば、古代の儀礼用の酒は、米、粟、黍などの穀物を醸造したもので清濁にも違いがあり、香草の煮汁を加えることもあった。醴(れい)は甘酒のようにどろっとしていて、ヨーグルトのようにスプーンですくって飲んだ(食べた?)という。これはドラマに取り入れても、あまり絵にならないかもしれない。

 私は、中国青銅器というと、饕餮文をはじめ、やたらゴツゴツして四角張った造形のイメージがあったのだが、中には、なめらかな曲線で構成された器もあることに、あらためて気づいた。

 最後の画像は鴟梟卣(しきょうゆう)のひとつ。鴟梟はフクロウやミミズクの類を指し、獰猛で残忍な悪鳥とされていたが、「毒を以て毒を制す」の発想から、守護の役割を期待されたのではないかという。中国で子供のお守りに五毒の刺繍やアップリケを用いるようなものだろうか。それにしてもこの鴟梟ちゃん、絶対に女子受けする可愛さである。

 後半は銘文を持つ青銅器を集中的に展示。西周前期(紀元前11~10世紀)の文書がきちんと残っているって、すごい。大事な記録を後世に残そうとして金文に刻んだ意図が、十二分に達成されている。紙と墨もすごいが、金文はさらにすごい。それに比べると、電磁記録なんて記録と呼ぶのもおこがましいように思える。

 なお、本展にちなんで「港区内3館をめぐる中国古代青銅器デジタルスタンプラリー」というイベントが行われいる。泉屋博古館東京、根津美術館、松岡美術館をまわると「おでかけしきょうそん(鴟鴞尊)」(3D ARフォトフレーム)をGETできるという企画だ。いずれも個人の美術コレクターに由来する美術館だが、明治期の日本人が、どうして中国青銅器に熱狂したかも、北宋時代のリバイバルから「茶の湯」を通じての受容の歴史を知って、少し理解できたように思った。

 饕餮文については、2012年に同館の『神秘のデザイン』展で学んだことを思い出した。饕餮文という呼び名も北宋時代に始まるもので、殷周時代の人々がこの文様をどう呼んだか分からないのだそうだ。解説パネルに饕餮(とうてつ)は「窮奇(きゅうき)」「檮杌(とうこつ)」「渾沌(こんとん)」ともに「四凶」として恐れられたとあったので、さっそく中文wikiで調べている。

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