見もの・読みもの日記

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安田雷洲に注目/激動の時代 幕末明治の絵師たち(サントリー美術館)

2023-11-07 21:14:05 | 行ったもの(美術館・見仏)

サントリー美術館 『激動の時代 幕末明治の絵師たち』(2023年10月11日~12月3日)

 幕末明治期の江戸・東京を中心に活動した異色の絵師たちを紹介し、その作品の魅力に迫る。たまたま私が目にした宣伝ビジュアルが、国芳と芳年らしかったので、またこの二人か、変わり映えしないなあ、と思って、あまり期待していなかった。それが、会場に来てみたら、冒頭に狩野一信の『五百羅漢図』から、とびきりいいセレクションの6幅(第21、22、45、46、49、50)が並んでいて感心した。第45幅は室内で羅漢たちが米のおにぎり(!)をこしらえており、別の羅漢が窓の外の餓鬼たちに施している。よく懐いた森の動物に食べものを与えるような自然な雰囲気である。東博の『やまと絵』展で『餓鬼草紙』を見てきた直後だったので、なんだか可笑しくなってしまった。幕末の絵画は「狩野派」と「文晁一門」が二大潮流ということだが、「やまと絵」の伝統も確実に受け継がれている。

 狩野一信の『源平合戦図屏風』や『七福神図』は見たことがあると思ったら板橋区立美術館の所蔵で、そのほかにもけっこう板美から作品が来ていた。谷文晁は人物画『柿本人麻呂像』と小品の山水図が出ていたが、なんでも描ける画人だったことはよく知っている。仏教の賢者になぞらえて「八宗兼学」と呼ばれていたというのがすごい。服部雪斎の『葡萄と林檎図』は、ピンクとブルーの縞模様のようなリンゴが現実離れして愛らしかった。

 続いて「幕末の洋風画」のセクションには、なんだか変な絵が並んでいるなと思ったら、安田雷洲の『水辺村童図』(九博)で、その隣もそのまた隣も雷洲だったので、ええ、どういうこと?と慌ててしまった。雷洲の絵画、本展には全12件出陳されており、展示替えがあるので、一度に見られるのは6件である。『赤穂浪士報讐図』(本間美術館)は、かつて見たことがある気がしたものの、自信が持てなかった。あとでブログを検索したら、2006年に府中市美術館の『亜欧堂田善の時代』で見ていた! 私が「雷洲」の名前に出会った最初の展覧会である。ただ、このときのメモには書き留めていないことを、本展の解説で知った。本作は西洋の銅版画『⽺飼いの礼拝』を元にしたと見られており、聖母マリアの抱く幼子イエスが、吉良上野介の首級に替えられているのだ。詳細は、以下の記事に詳しい。安村敏信先生、大好き。

※TokyoArtNavigation:江戸アートナビ No. 9「違和感の塊! 忠臣蔵でメリー・クリスマス?」(2014/12/14)

 そして肉筆画以外にも、雷洲の版画(小品が多い)が、いくつもの展示ケースに渡って多数集められており、誰なの、この企画者は!とひとりで興奮していた。江戸近郊や東海道の名所絵のほか「新田よしさだかまくらをおとす」などの歴史画(?)、それに丁未地震・武江地震・東都大地震を描いたものがある。老眼にはつらいと思ったが、「文化財オンライン」を「安田雷洲」で検索すると、けっこうヒットして嬉しい。いい時代になったものだ。

 ほかに洋風画では、府中市美術館で見た『虫合戦図』の春木南溟に再会。隅から隅まで洋風の銅版画『市街戦争図』の松本保居も気になったが、調べたら「初代・玄々堂」の人か! この頃の人は名前がいくつもあって厄介である。

 後半は国芳・芳年を中心とする幕末浮世絵の世界。国芳の『讃岐院眷属をして為朝をすくふ図』の摺りが非常に美しく、鰐鮫の背中を食い入るように眺めてしまった。鯰絵、開化絵、横浜絵などもあり。珍しく菊池容斎が推されていたのが面白かった。このひとも『呂后斬戚夫人図』など、あやしく血腥い絵を描いているのだな。これ、静嘉堂文庫美術館所蔵らしいが、展示しにくいだろうなあと思った。

 展示を見終わってから、開催趣旨を読み直すと「幕末明治期の絵画は、江戸と明治(近世と近代)という時代のはざまに埋もれ、かつては等閑視されることもあった分野です。しかし、近年の美術史では、江戸から明治へのつながりを重視するようになり、現在、幕末明治期は多士済々の絵師たちが腕を奮った時代として注目度が高まっています」というあたりが腑に落ちる。『やまと絵』展からの流れで見たのも正解だったと思う。

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