〇『蓮花楼』全40集+番外編(愛奇藝、2023年)
この夏、中国で大ヒットしたドラマである。「美男三人武侠サスペンス」と聞いて、私の趣味ではないかもしれないと思ったのだが、見てみたら、けっこうハマった。時代は架空の王朝「大煕」の設定。武芸の天才・李相夷は20歳にして正派の武門・四顧門の門主となった。しかし邪派・金鴛盟の盟主・笛飛声は、李相夷の師兄・単孤刀を呼び出して殺害し、李相夷に決戦を挑んできた。李相夷と笛飛声は嵐の海で激闘を繰り広げ、相討ちとなって姿を消した。
そして10年後、「神医」李蓮花が世に現れる。彼は四頭立ての馬に引かせた移動式住宅「蓮花楼」で愛犬・狐狸精とともに気ままな旅暮らしをしていた。李蓮花の正体は李相夷、「東海一戦」の直前、何者かに「碧茶」の毒を盛られたが、無了和尚に救われ、別人・李蓮花として生きることに決めたのである。しかし彼の余命は持って10年と予言されており、その年限も尽きようとしていた。李蓮花の最大の心残りは、師兄・単孤刀の遺体の行方が分からないことだった。
そこに現れたのは、四顧門の刑堂・百川院の一員になることを目指す若き武芸者・方多病。幼い頃に李相夷から武芸の手ほどきを受けたことが自慢で「李相夷の弟子」を名乗っている。しかも話を聞くと、単孤刀の実の息子であることが分かる。方多病は、李蓮花がまさか李相夷そのひとであるとは知らず、武芸オンチらしい李蓮花を守ろうと奮闘し、李蓮花はそんな方多病を「方小宝」と呼んで可愛がる。しかし方多病は、徐々に李蓮花の正体に気づくとともに、実父の単孤刀を死に追いやったのは、師兄をねたんだ李相夷であるという世間の噂に動揺する。
一方、金鴛盟の盟主・笛飛声も10年の療養を経て、いくぶん内力を回復し、活動を開始する。笛飛声は李蓮花を探し当てるが、「東海一戦」の李相夷が毒を盛られていたことを知ると、義憤に駆られ、単孤刀の遺体探しに協力する。さらに李相夷の治療を手伝い、真の実力を回復した上での再戦を迫る。李蓮花が「老朋友」阿飛(笛飛声)と何やら秘密を共有している雰囲気が、「新朋友」方多病にはちょっと面白くない。この、仲がいいんだか悪いんだかよく分からない三人組が、次々にミステリアスな事件の解決に挑んでいくのが本作の見どころである。
【ネタバレ】やがて別々に見えた事件が、滅亡した王国「南胤」の存在を鍵に結びついていく。金鴛盟の一員で笛飛声の腹心に見えた聖女・角麗譙は、南胤復興のために金鴛盟を利用していた。また、実は生きていた単孤刀は、自らを南胤の皇帝の末裔と信じ、帝位を簒奪することを企んでいた。彼らが狙っていたのは、業火母痋と呼ばれる毒虫で、毒虫に刺された人々を意のままに操ることができる。この毒虫を制するのは、南胤皇帝一族の血のみと言われていた。李蓮花らは単孤刀を取り押さえ、その血を毒虫に垂らしたが何も起こらない。そこに李蓮花・単孤刀を育てた師母が現れ、李蓮花の血を毒虫に垂らすように告げる。ともに孤児として育った李蓮花と単孤刀、南胤皇帝の血脈を受け継いでいたのは李蓮花だったのである。これは皮肉が効いていて、なかなかよいドンデン返し。
単孤刀一味との乱戦の末、笛飛声は李蓮花の毒を解く可能性のある薬草・忘川花を手に入れ、これを李蓮花に渡して、再戦を約して立ち去る。しかし李蓮花は、この薬草を大煕皇帝の病の薬として献上する。そして四顧門を朋友たちに託し、蓮花楼さえ残して、どこかへ姿を消してしまった。
ストーリーもよくできていると思うが、ドラマの魅力は、なんといっても三人の主人公たちである。李蓮花/李相夷の成毅はたぶん初めて見た。李相夷は自負心の強い(それゆえ敵もつくりやすい)少年英雄だが、李蓮花は、大人の諦観を感じさせ、ちょっとオバサンっぽい。方多病の曽舜晞くんは『倚天屠龍記』以来だけど、少年らしいまっすぐキャラがよくハマる。序盤は自称が「本少爺」(俺様)なのが可愛かった。笛飛声の肖順堯さんは『軍師聯盟』の司馬師以来! 少年マンガによくある、ライバル大好きな勝負一筋の硬派男子で、角麗譙の色香にも迷わない。つねにマイペースなところも好き。
ドラマ放映終了後、9月16日には出演俳優さんたちによる「演唱会(コンサート)」が開催されており、この映像もYoutubeで楽しませてもらった。やっぱり歌とダンスが本職の肖順堯さんが抜群にカッコよく、素朴な人柄にギャップ萌えしてしまった。Youtubeで彼の動画を探して視聴する「沼」からまだ抜け出せないでいる。