〇サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展II『日本美術の裏の裏』(2020年9月30日~11月29日)
行ってみたら楽しい展覧会だったが、タイトルを聞いたときは意味がよく分からなかった。裏打ちとか裏彩色とか紙背文書とか、物理的な「裏」に注目するのかと思い込んでいたが、いまホームページに掲げられた開催趣旨を読んでみると、こういうことらしい。なるほどね。
――「裏」には、見えない部分だけでなく、奥深く、隠された内部という意味があります。日本美術をより深く愉しめるように、教科書では教えてくれない面白さの一端をご案内します。目に見えていない(=裏)ところにこそ、魅力が隠れている(=裏)かもしれません。
会場は5つのセクションで構成されている。「空間をつくる」は主に屏風、「小をめでる」は雛道具と日常のうつわ、「心でえがく」は素朴絵系の絵巻と絵入本、「景色をさがす」はやきもの、「和歌でわかる」は歌仙絵・和歌色紙と和歌にまつわる調度品など、「風景にはいる」は名所風景画。どれもサントリー美術館の得意分野で、過去のさまざまな展覧会が記憶によみがえる。
襖みたいなパーテーションなど、会場のつくりに遊びがあって面白かった。この展覧会、驚いたことに展示品は全て写真撮影可能だった。海外の美術館では珍しくないが、日本でこういう展覧会は珍しいので驚いてしまう。特に「心でえがく」のセクションでは、絵入本『かるかや』が大きく広げてあって(本来、冊子体のはずだが、綴じを外して絵巻のように並べていた)夢中で写真を撮りまくった。この、ゆるくて素朴な絵がつづる、純粋で真剣な信仰と家族愛の物語、大好きなのだ。
これも大好きな『鼠草子絵巻』。白馬の顔もネズミふうなのがかわいい。ほかに『雀の小藤太絵巻』『藤袋草子絵巻』『おようのあま絵巻』『新蔵人物語絵巻』も出ていた。
写真撮影できるのは、作者不詳の絵巻や絵入本に限らない。円山応挙や池大雅や谷文晁作品もOK。しかし階下の展示室で、佐竹本三十六歌仙絵『源順』(鎌倉時代)が出ているのを見たときは、ちょっとうろたえてしまった。いいの?ほんとにいいの?と思いながら撮影。学者官僚である源順が好きなので、大事にしよう、この写真。
というわけで、あまり話題になっていないけど、お得感のある展覧会である。