見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

見えない魅力の発見/日本美術の裏の裏(サントリー美術館)

2020-10-11 21:46:37 | 行ったもの(美術館・見仏)

サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展II『日本美術の裏の裏』(2020年9月30日~11月29日)

 行ってみたら楽しい展覧会だったが、タイトルを聞いたときは意味がよく分からなかった。裏打ちとか裏彩色とか紙背文書とか、物理的な「裏」に注目するのかと思い込んでいたが、いまホームページに掲げられた開催趣旨を読んでみると、こういうことらしい。なるほどね。

 ――「裏」には、見えない部分だけでなく、奥深く、隠された内部という意味があります。日本美術をより深く愉しめるように、教科書では教えてくれない面白さの一端をご案内します。目に見えていない(=裏)ところにこそ、魅力が隠れている(=裏)かもしれません。

 会場は5つのセクションで構成されている。「空間をつくる」は主に屏風、「小をめでる」は雛道具と日常のうつわ、「心でえがく」は素朴絵系の絵巻と絵入本、「景色をさがす」はやきもの、「和歌でわかる」は歌仙絵・和歌色紙と和歌にまつわる調度品など、「風景にはいる」は名所風景画。どれもサントリー美術館の得意分野で、過去のさまざまな展覧会が記憶によみがえる。

 襖みたいなパーテーションなど、会場のつくりに遊びがあって面白かった。この展覧会、驚いたことに展示品は全て写真撮影可能だった。海外の美術館では珍しくないが、日本でこういう展覧会は珍しいので驚いてしまう。特に「心でえがく」のセクションでは、絵入本『かるかや』が大きく広げてあって(本来、冊子体のはずだが、綴じを外して絵巻のように並べていた)夢中で写真を撮りまくった。この、ゆるくて素朴な絵がつづる、純粋で真剣な信仰と家族愛の物語、大好きなのだ。

 これも大好きな『鼠草子絵巻』。白馬の顔もネズミふうなのがかわいい。ほかに『雀の小藤太絵巻』『藤袋草子絵巻』『おようのあま絵巻』『新蔵人物語絵巻』も出ていた。

 写真撮影できるのは、作者不詳の絵巻や絵入本に限らない。円山応挙や池大雅や谷文晁作品もOK。しかし階下の展示室で、佐竹本三十六歌仙絵『源順』(鎌倉時代)が出ているのを見たときは、ちょっとうろたえてしまった。いいの?ほんとにいいの?と思いながら撮影。学者官僚である源順が好きなので、大事にしよう、この写真。

 というわけで、あまり話題になっていないけど、お得感のある展覧会である。

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禁忌とまじない/魔除けの民俗学(常光徹)

2020-10-06 22:31:58 | 読んだもの(書籍)

〇常光徹『魔除けの民俗学:家・道具・災害の俗信』(角川選書) 角川書店 2019.7

 最近あまりこのジャンルを読んでいなかったけれど、民俗学という学問は大好きだ。本書は、家屋敷・生活道具・自然災害にまつわる伝承を俗信の視点から読み解いたもの。俗信とは、予兆・占い・禁忌・呪い(まじない)に関する知識や生活技術である。

 はじめに家屋敷に関する俗信として、屋根、棟(屋根の一番高いところ)、破風、軒(のき)、床下などに関するものが取り上げられている。これらは境界性を帯びた空間であることから、人の死や出産にかかわる俗信が多い。難産のときのまじないに、石臼や甑(こしき)を屋根から落とすというのは聞いたことがあったが、正確には屋根の棟を越えさせる動作が重要なのだ。ところが、平徳子が安徳天皇を出産する際、甑を北から南へ棟を越して落とすべきところ、北側に落として騒動になったことが「山槐記」に記録されているという。ひなびた民俗世界の俗信が、かつては宮中でも用いられていたことが分かって面白い。

 あと、人が死ぬと四十九日(あるいは三年間)は魂が屋根の棟に残っていると言うそうだ。集合住宅の多くなった都会では、魂はどこにいるのかなあ。屋上で寄り合っているのだろうか。

 庭木について、南天や槐(エンジュ)が縁起の良い木であることは知っていたが、枇杷は庭に植えてはいけないのか(むかし近所の家に枇杷の木があったことを思い出しつつ)。銀杏を庭に植えないという禁忌も「ほぼ全国的」で、その理由は「寺社に植える木だから、位負けする」のだそうだ。しかし、子どもの頃、大きな銀杏の木がある家があったこと(秋には黄金色に染まっていたこと)を何十年ぶりかで思い出した。東京の下町の、昭和の風景である。

 井戸について、七夕が井戸替え(井戸浚い)の吉日だというのも興味深く読んだ。文楽の「妹背山婦庭訓」でしか知らない行事である。井戸替えは男の仕事で、女性が関わるのは嫌われていたという。

 生活道具では、箒、箕、鍋、柄杓などが取り上げられている。〇〇してはいけないという禁忌が非常に多くて、むかしの生活はつくづく大変だなあと思った。鍋に蓋をせずに煮炊きしてはいけないとか、鍋釜の蓋をとったまま外出してはいけないとか、現代生活ではとても守っていられない。スミマセン。柄杓と船幽霊について、本来、柄杓は魂の入れもので、投げ入れて幽霊を封じ込めるものだったが、のちに底を抜いて与えることに改変されたというのは柳田国男の見解で、さすが面白い。

 災害と俗信には、さまざまな唱え言が伝わっているが、高知の伝承で「カアカア」と叫ぶというのが一番簡単でよいと思った。最終章は、ちょっと毛色が変わっていて、高知県土佐市の真覚寺の住職・井上静照の日記が紹介されている。嘉永7(安政元)年の安政南海地震を発端として、被害や余震の状況に加え、さまざまな記録を含む。猫やネズミ、蛇など、身近な小動物の記事が面白かった。

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闘う女性たち/中華ドラマ『摩天大楼』

2020-10-04 23:53:25 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『摩天大楼』全16集(企鹅影視、聯播伝媒、2020)

 中国ドラマ、今年は犯罪ミステリーやサスペンス系のドラマが次々に話題をさらっている。本作も評判どおり、とても面白かった。ある晩、高層マンションで停電が発生し、20階の住人で、マンション併設カフェの若い女性店長である鍾美宝が自室で死んでいるのが発見された。鍾刑事(中年男性)と部下の楊警察官(若い女性)は、二人三脚で捜査を開始する。

 全16話は、事件の関係者への聴き取り(1人2話ずつ)で構成されている。1人目・謝保羅はマンションの保安員で、事件の第一発見者となった。鍾美宝に好意を持ち、何らかの秘密を共有していたと考えられる。2人目・16階に住む建築家の林大森は、世界的な大建築家の娘・李茉莉を妻に持つが、夫婦仲はよくない。幼なじみの鍾美宝にこのマンションで出会ってから、不倫の関係にあったことを告白する。3人目・マンションの管理人で12階の住人でもある林夢宇は、23階に住む丁小玲と愛人関係にあり、二人で他人の留守宅に忍び込み、変態プレイを愉しんでいた過去がある。最近は鍾美宝に心を奪われ、天井裏を伝って、換気口から鍾美宝の部屋に入り込んでいたことを告白する。林夢宇の妻の沈美琪は、夫が鍾美宝に惹かれていることには気づいていたが、犯人ではあり得ないと証言する。

 このへんまでは、マンションの住人たちの、嫉妬や虚栄、情痴や仮面夫婦ぶりなど、ドロドロした暗黒面が噴出し、中国も「都市化」したなあと感慨深く思った。しかしドラマの見どころは、前半に埋め込まれた「虚」と「実」が次第に明らかになっていく後半である。

 以下は【ネタバレ】あり。4人目は鍾美宝と同じ階に住む女性小説家の呉明月。彼女の作品『祥雲幻影録』の主人公・美玉公主は、弟の隽辰皇子を助けるため、残虐な魔君の后妃となり、隙を見て魔君を殺害する(この劇中劇はアニメで表現されている)。鍾美宝はこの結末をとても喜んだという。彼女にも父親の違う弟がいた。

 鍾刑事と楊警察官は、鍾美宝の家族を追って、5人目・彼女の阿姨(家政婦)だった葉美麗を訪ねる。葉美麗は幼児誘拐の罪で刑務所にいた。葉美麗は、かつて医師として働いていた頃に、美宝と弟の顔俊、母親の鍾潔と知り合った。母子三人は、凶悪で暴力的な父親・顔永原から逃げようとしていた。葉美麗はそれを手伝おうとして失敗し、顔俊だけを連れ出したのである。6人目の顔俊は葉美麗に育てられ、将来を嘱望される若手ピアニストに成長していた。しかし実父の顔永原は葉美麗を誘拐罪で訴えて遠ざけ、息子に金の無心を繰り返していた。

 7人目として顔永原が現れ、いかに自分が誤解を受けているかを縷々説明する。確かに法律を「正確」に適用すれば顔永原を罪に問うことはできない。それでは「正義」はどこにあるのか?と悩む楊警察官。感情に動かされるな、と諫める鍾刑事。楊警察官は、関係者の証言の中に小さな疑問を発見し、そこを糸口として、ついに事件の真相の「目撃者」がいたことを突き止める。

 8人目、最後の証言者となるのは鍾美宝自身。継父を避け、母親の親戚のもとに転がり込んだ美宝は寄宿制の女子校に入れられ、そこで初めて心を許せる女友だち二人と出会う。彼女たちは、卒業後も互いに助け合い続けた。停電の夜の真相とは、弟を守るため、悪魔のような父親・顔永原を監禁し、殺そうとした美宝が、逆に顔永原に殺されたのだった。美宝の「潔白」を守るため、二人の女友だち、李茉莉と丁小玲、その夫と情人である林大森と林夢宇、美宝に憧れていた謝保羅も、全て嘘の証言をしていたのである。

 最後は鍾美宝が店長をしていたカフェ(彼女の小さな写真が飾られている)の店番に立つ謝保羅、それを手伝う呉明月、そのほかマンションの住人たちの明るい表情で終わる。大都会の高層マンションを舞台にしながら、実は濃密な「友情」と熱い「互助」の精神がつくった事件というのが面白く、特に女性三人の絆の強さ、たとえ法律を犯しても仲間を守る鉄壁の「同志愛」が印象的だった。なお、原作小説は台湾の女性作家の作品である。

 くせ者の多いドラマの中で、楊子姗の演じた楊警察官のまっすぐな気性は一種の癒しだった。アンジェラ・ベイビーの鍾美宝は、はかなげで謎めいた雰囲気を漂わせていたが、子役の王聖迪(幼年時代)と張煜雯(少女時代)が持っていた、逆境に負けない強さが欠けていた点が残念。弟の顔俊を演じた曹恩斉は、実際にピアニストでもあるとのことで驚いた。

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2020年:中秋の名月

2020-10-01 22:31:43 | なごみ写真帖

今日は旧暦八月十五日(中秋節)。我が家のベランダから、十五夜の月がよく見える。

仕事帰りに月見団子でも買っていくか、月餅でもいいな、と思ったけれど、どちらにも出会えず、花屋でススキと菊と竜胆と葉鶏頭の秋の花束を買って帰ってきた。ウサギのマスコットつき。

2020年は、花見らしい花見もせず、夏祭りも花火大会も中止で、季節を感じるヒマもなく、あと3か月になってしまった。秋冬もこのまま過ぎていくのだろうか。まあ無事が一番ではあるが。

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