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何も考えずに、でも何かを求めて、鉄道の旅を続けています。今夜もmoonligh-expressが発車の時間を迎えます。

世界遺産もいいけど、お隣の「小幡」の町も必見ですよ!

2024年08月20日 | 土木構造物・土木遺産


群馬での滞在先は富岡市。群馬県の南西部にあり人口4万5千人強。妙義山や上州一の宮・貫前神社、県立自然史博物館、群馬サファリパークなどを市域に持つが、何といっても「富岡製糸場と絹遺産群」として世界遺産に登録、大河ドラマにおいて渋沢栄一が登場したこともあって一躍脚光を浴びる町になった。
富岡市は、ご承知のとおり官営の製糸工場である富岡製糸場(写真上:富岡製糸場正面と富岡の町の玄関口である上信電鉄の富岡駅)の設置により繁栄をした。明治初期のことで、古い町並みは確かに魅力的で、富岡製糸場とともに当時の雰囲気を味わうことができるが、一方で市街地は道幅が狭く道路も一方通行が多い。富岡製糸場付近には駐車場もない。
そもそも富岡製糸場や世界遺産について私がここで紹介・説明するのはおこがましいことでもあるし、世界的な観光都市よりももっとマニアックな場所を求めて探していると、富岡市街から車で10分ほどのところに土木遺産があるではないか!



お邪魔したのは富岡市のすぐ隣り町の甘楽町(かんらまち)。「甘楽(甘良・から)」という地名は、奈良時代までさかのぼるという歴史ある土地。その中で注目は、小幡(おばた)地区。江戸時代に、織田信雄が所領として与えられて初代・織田信良により陣屋が置かれ城下町として発展する。
陣屋や数々の武家屋敷、その中を貫く中小路、御殿(陣屋)に併設された大名庭園で池泉回遊式庭園である国指定名勝「楽山園(写真上)」などなど、江戸時代の貴重な文化財が保存されているとともに、復元されている(写真上:小幡藩陣屋の絵図)。これらが2010年、全国でも16番目の歴史的風致維持向上地区(歴史まちづくり法)の認定都市ともなっている。
街並みをぐるぐるっと巡ってから、小幡の中心部にある大手門跡のすぐそばにある「甘楽町歴史民俗資料館」にお邪魔して、係員の方に甘楽や小幡の歴史について懇切丁寧に説明いただいた。大手門を境に南側が武家屋敷、北側が商家や養蚕農家の街並みを見ることができる。(時代は、若干違うのだが、街並みはマッチしている。)



確かに養蚕が盛んになったのは大正期。歴史民俗資料館は繭倉庫として造られたものだが、農協倉庫などを経て資料館に改装したもの(写真下:資料館全景と展示写真)。1926年(大正15年)、レンガ造りの養蚕最盛期を象徴する建造物であることから町の文化財に指定さた後、近代化産業遺産、日本遺産にも認定されている。
武州・上州・信州では養蚕業が盛んであったが、この甘楽町もその産地のひとつ。官営の技術者を養成するといった目的で設置された富岡製糸場、全国の養蚕業を支える器械製糸の指導者である工女を輩出していった。その下支えをしたのが富岡周辺の養蚕農家であった。(熱く語ってくれた資料館の係りの方の受け売りですがー。)
富岡製糸場の周辺には、甘楽社、大仁田社、松井田社といわれた組合式の製糸工場が設置されていて、実は官営の富岡製糸場とともに富岡の製糸業と日本の外貨獲得のための模範的工場が立ち並んで一大産地を形成していた言ってもいいようだ。そのひとつの供給地が近郊の甘楽であり、江戸期から大正期にかけての武家社会や養蚕業を中心とした日本の産業革命による繁栄などを、街並み全体で表現しているのが小幡なのである。



さて、その小幡にある土木遺産はというと「雄川堰」というかんがい設備である(写真下:小幡中心街と路地裏の用水路)。正確な築造時期は不明だが、鏑川をはじめとした深い谷を形成する土地形状から、織田氏が所領するころから整備が進められたという。この趣のある街並みに古くから生活用水を供給してきたものである。
小幡の中心地から鏑川の支流・雄川を3キロほど上流にある大口(取水堰)から、町中に引き込んだ用水を小堰を各所に設けながら武家屋敷に生活用水を供給するとともに、下流北部の水田を潤す農業用水として、また動力源として多目的に活用された。これが世界かんがい施設遺産(2014年)をはじめ、名水百選、水の郷里百選、疎水百選に認定され、2010年に土木学会選奨土木遺産に選奨されている。(果たしてこのエリアにいくつの認定項目が存在しているのだろう?)
藩主の織田氏・松平氏は水奉行をおいてこの用水を管理していたが、一時水の汚染が心配された時期(昭和50年以降)には住民の手で浄化運動が始まり、現在も当番制で清掃・管理が行われているそうだ。富岡もいい町との印象だけど、甘楽・小幡の街並みを支える住民の姿は感服する次第だ。世界遺産へ行った際には、ぜひ足を向けてもらいたい町だ。






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