眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

家電に寿命があるのは本当か

2020-10-03 15:59:00 | 【創作note】
 たまに驚くほど昔の家電が置いてあることもある。
 引っ越した時、そこにあったのはナショナルのエアコンで、夏には何度か水を吐き出し、冬には部屋を暖めることを放棄した。もはや交換する部品もなく修理も不可能ということで、大家さんが新しいエアコンを購入したのは、数年前のことだった。
 夕べは久しぶりにPomeraがおかしくなった。続きを書こうとして開くと、画面が白い。ここまではよくあることだ。カーソルが何もないところに止まっているのだろう。しかし、何か嫌な予感がした。上に行っても何も出てこない。下に行っても何もない。一番上に戻ってみるか。既にそこが一番上だ。カーソルの行き場はない。

(文字がない!)

 まさかと思いF7文字情報を表示させると、総文字数が00000だった。
 アルト・タブで画面を切り替えると、そちら側には文字があるものの、何か変だ。今日書いたとこじゃない。ファイル名と内容が一致していない。恐らくは何か別のファイルが表示されている。一旦、あきらめてPomeraを閉じる。もう一度開いてみても同じまま。次にPCからSDカードを読み取ってみると、データは最後に書いたとこまで(最新の状態)残っていた。

(助かった!)

 タイミング的には、電池交換をした直後だった。その前に上書き保存をしていたのはよかった。一区切りしたらデータ保存は必ず行おう。
 毎日バックアップは取っているので、仮に失われたとしても1日分の文字だ。それでも軽くめまいがするほどには動揺してしまう。

 使用中のPomeraは旧型で、発売されたのは2011年だと思われる。文字盤の文字もすっかりかすれ、半分以上が見えなくなった。それにしても、よく持ったものだ。
 だが、そろそろ……、考える時がきているのだろうか。


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幽霊階段

2020-10-03 08:00:00 | ナノノベル
 階段の下で幽霊は腰を下ろしていた。一年かけて入念なメイクを重ねてきたのに、一度も出ない間に夏は終わってしまったという。昨年の夏、出た瞬間に笑われてしまったことがよほど堪えたらしい。現れるに足りないとみられた自分には価値がなく、まずは第一印象からの再考を迫られたのだと言う。「結局、トラウマに打ち勝てなかった」意気込みすぎて出るべきところで出られなかったと言う。夏の終わりは、自分が一番よくわかっている。そう言って幽霊は長く伸ばした髪を地面に垂らした。

 階段の上から母と子が向き合ってじゃんけんをしながらゆっくりと下りてきた。下りたと思えば、少し後戻りする。出るべきところで出られなかったのは、自分の力不足だと幽霊は語った。誰かが背中を押してくれれば、出られたという場面もあったが、他者の助けを借りて出るような出方では所詮こけおどしにすぎず、それは自分の理想とは程遠いものだと言う。幽霊のすぐ傍まで、男の子は下りてきた。けれども、激しいじゃんけんの応酬の後で、夏に押し戻されるように階段を駆け上がっていった。

 幽霊はもう一度あの夏のことを振り返った。「テレビで」と蚊のように鳴いた。みんなに笑われた時、偶然そこで見てしまったのだと言う。自分たちを真似て作られたはずの作り物が画面の中から飛び出してきた時、幽霊は思わず身を引いてしまったのだと言う。「あれは本当に怖かった」虚構の方が現実の霊を超えてしまったのではないか。そうした疑念を打ち払うために多くの夜が必要だったと言う。

「モダンメイクの研究に多くの時間を費やした」

 幽霊の時間は、私たちの考える時間とは少し違うものであるらしい。逃した一夏など、本当はたいしたものではないのかもしれない。
「夏の最初からやり直せるとしたら……」それは愚問かもしれなかった。
 でき始めた夜に貼り付いた作り物のような月を見つめ、幽霊は言葉を呑んでいた。夏色の浴衣をなびかせながら男の子は階段を下りてきた。勝利のチョキを崩さないままで。

「いい加減にしなさい!」
幽霊が一喝すると親子は瞬時に消え去った。
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