悪夢にもからっとしたものと、ねっとりとしたものがある。見ている時には恐ろしくても覚めた瞬間、「あー夢でよかった」と思えれば、悪夢も清々しい。しかし、覚めてもまだ夢世界から抜け切れないで、恨みや気がかりが半分向こうに残っている。(夢というのに納得がいかない)そういう悪夢は精神的に疲れるし、後に引きずってしまう。
少し前は船内だった。ちょうど船の外でUFOショーが始まって、カメラを持って近づくが、ガラスに反射して上手く撮れない。外に出ようということになり、ワイングラスを持った芸能人がいて……。
次の場面では酔っぱらいに責められている。クーポンの扱いを巡る手違いで、2人の料金に200円の差が出てしまった。半分は僕のミス、半分は仲間との連携ミスだった。動揺する中で僕は「クーポンどこいった?」みたいなことを言ってしまった。それが爆発のスイッチになった。
「出したじゃないかー!」
酔っぱらいは怒鳴った。そうだ。クーポンはすべて僕の手元にあるのだった。
「申し訳ありません」
酔っぱらいが爆発してから、スタッフ一同が頭を下げ始めた。ミスに関与した男は無言を貫いている。
「どうなってるんだ!」
「申し訳ありません」
皆が詫びるために図式が定着してしまった。
勿論、主犯格の悪者は僕だ。
「申し訳ありません」
誰が何度頭を下げようと酔っぱらいの怒りは、最終的には僕の前に帰ってくるではないか。申し訳ないにしても、そこまでか?
いったいいつまで頭を下げているつもりだ。
他にないのか。もっと前向きな提案をしないのか。
「目を見て謝って」
「申し訳ありません」
謝罪の一方通行に追い込まれて視野が狭くなっていた。
酔っぱらいの体がまとう怒りの炎だけが世界を照らしている。
いつまでも、いつまでも、消えない炎。