「オムレツ!」
ナナのリクエストは絶対。
だけど卵がない。
スーパーはもうどこも閉まっている。
「オムレツ! オムレツ!」
ナナのリクエストはキャンセル不可。
パパはフライパンを見つめている。
そこに割り入れる卵はもうないのに……。
「よし! 創るぞ!」
パパはゼロから始めることを決めた。
赤ピーマン、乾電池、軍手、布団、トマト、ビニール傘、白ネギ、トランジスタラジオ、ビー玉、鷹の爪……。
「確か昔習ったことが」
「あなたどうするの?」
心配げなママの横でパパは家の隅々から集めた素材を用いて必死の創作活動に没入している。ここは手、ここは頭、ここは羽、ここは心臓……。
「ニワトリから創るのね」
「一度授業でやった覚えが」
「確かなの? あなた」
骨組みができ、皮膚ができ、羽が震えて、瞳が光り、鶏冠が立ち上がった。
覚えある手がリクエストをかなえるために休みなく動き続けた。徐々にそれらしく、それでいてどこか不気味な生き物を創り出そうとしていた。
「パパもうやめて!」
立ち上がる命にナナが待ったをかけた。
「ハンバーグでいい」
「どうした? 簡単にあきらめちゃいかん」
「もういいの」
パパは手を止めない。最初のリクエストが絶対だ。
苦心の羽を広げてニワトリは今にも羽ばたきそうだ。窓の向こうを見つめていたニワトリの首が回って、ギョッとナナを見た。
「ニワトリ嫌い!」
「ナナ……」
強い言葉にパパは驚いて手を止めた。
「ハンバーグがいいの!」
「そうか……」
パパは少し残念そうだ。
「あなた。私もそれがいいと思うわ」
「じゃあ、オムレツはまた今度だな」