信号機よりもまだ高いところに細い吊り橋がかかっていて、僕らはそこに跨がって交差点を見下ろしていた。交通調査の仕事だ。
最初は見ているだけだったが、誰かがハンカチを落としたりしたら叫んでしまう。しつこい勧誘につきまとわれている人を見ると口を出してしまう。おかげで僕らは目立つ存在だった。たすきを巻いたおかしな政治家みたいなのがやってきて、文句を言い出した。
「下りなさい! 危ないじゃないか!」
「うるせーな!」そういう仕事なんだよ。
ずっと平気だったのに、地上のある一点を見た途端に恐怖心があふれてきた。
(高いところはだめだったんだ)
震えている。それが伝わって吊り橋も揺れ出した。
「真ん中から下りられるかな?」
吊り橋を端まで渡りきる自信がなかった。徐々に震えが大きくなり、もう一歩も動けそうにない。
「落ち着いて! まずは深呼吸しよう」
隣の先輩が前向きな言葉をかけて励ましてくれる。
その時、交差点にあおり族がやってきた。
「何やってんだ!」
からかうような目がいくつもこちらを見上げている。
「仕事だー!」
先輩が叫んだ。
「お前も言ってやれ」
そうだ。恐怖に打ち勝つには怒りの熱が必要だ。
「こういう仕事なんだよ!」