眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

駅ナカきつね

2020-10-28 17:36:00 | ナノノベル
「へいいらっしゃい。食券をお願いします」
「いい匂いね」
「食券をどうぞ!」
 たぬきかなきつねかな。今日の気分はどっちかな。

「へいいらっしゃい!」
 やっぱりたぬきかな。ここの席にするわ。
 何だかよさげな店ね。きっと場所がいいのね。放っておいても人が来るような場所。味の方はどうかしら。期待を抱かせる出汁のよい匂いがするようね。きっとここはたぬきだわ。
「はい。お客さん先に食券をどうぞ」
 でもきつねも捨て難いものね。いつだって捨てた方は可哀想なものよ。

「へいいらっしゃいませ」
 とても威勢のいい店ね。呼び込まれるように人が入ってくるわ。
「いっらっしゃい。どうぞ」
 きつねが私を呼んでる気がする。熱いのがいいわ。一番熱いのをもらうとするわ。もしも熱くなければもう二度とこない。それだけのことよ。

「きつねをちょうだい」
 熱々でお願いします。

「いらっしゃいませ」
 忙しくても挨拶を欠かさない。わかってるわ。それが一番大事。
「はい。肉うどんお待ち」
 いいわね。あれもきっと正解ね。

「いらっしゃいませ。食券をどうぞ」
 ここはとても狭い店ね。もうすぐ満員御礼よ。5パーセントは還元されるのかしら。だったら私はPayPayで還元を受けるわ。今すぐ青青とした葱で還元させていただくとするわ。きつねが隠れるほどの還元で今年いっぱい私は生き残るのよ。葱は強く強く私を引っ張るのだわ。

「はい。カレーうどんね」
 ああ。なんてよさげな匂いでしょう! あなたの勝ちよ。カレーを選んだ者に負けはないの。それくらい知っていたけど今日の私はきつねに流された。敗れ去ったのはたぬき。だけどほんの紙一重だったわ。

「はい。ハイカラうどん」
 また私のじゃない。遅いわね。私のだけ来ないのね。私はここでよかったのかしら。私の正解はここだったのかしら。もうすぐ電車が来るわ。発車のベルがもう鳴り響いているわ。行き先を知る人が乗っていくの。みんな私を置いて行くのね。

「はい。たぬきお待ち」
 やっぱり誰かのたぬきなのね。

「いらっしゃいませ。食券をどうぞ」

 私のじゃない。ここはそういう店ね。
 みんな私を追い越していくの。私だけが通らないのね。

「いらっしゃいませ。食券をどうぞ!」
コメント (2)
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風とポメラ

2020-10-28 04:42:00 | 短い話、短い歌
風を受け書き出せば今日実になった
一首は君を示す全文
(折句「鏡石」短歌)


 扇子からは特別に優しい風が送られてくる。
「なんて優しい風でしょうか」
「特別な紙を使っておるからな」
 風の送り手は言った。
「どんな紙なんですか」
「風と親交の深い紙を特別に折ってある」
 秘密は紙の周辺に隠れているようだ。
「どう親交を得るのです? どう折るのですか?」
「何が知りたいのだ?」
「風のことです」
「根ほり葉ほりきくなー!」
 そう言って送り手は、扇子を振りかざした。
 優しかった風は厳しくなり、僕を押し戻した。


膝の上にあった
pomeraはまだ少しあたたかい
短い旅を終えて
ふりだしに戻る
このまま風化して行くの
化石となった手のひらを
誰が掘り起こすだろう


もう眠ったの
威勢はいいけど
構想がないのねいつも
おやすみ 
私も眠ろう
膝の上
少しあたたかい


風下に風の便りが満ちた時
行こうみんなの知らない街へ
(折句「鏡石」短歌)

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