父が大声を出すと乗り遅れたバスが戻ってきた。父の呼んだバスには乗りたくなかった。僕が選んだバスじゃない。どこへ向かうか知らないが、みんなお化けじゃないか。
「今乗らなければ次は来ないぞ」
一生ステップを踏むことはできないぞ。脅すように言うので父の口を封じた。
家の周りには複数の警官が張り込んでいるのが見えた。僕がゴミを捨てに行くのを待ちかまえているのだ。何も悟っていないように前を向いて歩いた。靴を脱ぎ、父を背負ったまま木に登る。下を見るな。そう教えられた通りに、上に上に登るのだ。奴らがあきらめるか、僕の存在を忘れるくらいまで、高く高く登るのだ。無防備な背中を取ろうと大鴉が迫ってくる。来るな。何もない。何もないから。
枝から伸びた滑り台を伝って密かに家に戻った。
もう駄目だろうか。取り出した父はすっかり風船になっていた。鼻歌のような息を吹き込んでいる内に、微かに動いた。
(動いた!)
耳を近づけると確かに父の息づかいが聞こえてきた。
父は、今から生まれようとしているのだ。
よかった。みんなこれからだ。