つかまえようと手を伸ばしたが、イメージは指の間をすり抜けて行く。見えているようで、あるのかどうか怪しい。夕べは特別な何かが感じられたはずが、ひと時過ぎれば確かな根拠を思い出すことができない。微かなイメージを頼りに、かためて、つなげて、共有できる形に起こしたとしても、愛しいものとはかけ離れたところに行くばかり。上手くやろうとすればするほど、迷路の中に迷い込むようだ。どこで間違えてしまったのか……。飛ばし方を忘れたロケットの前で、まだ星を想うことがある。
いつの間にか筆は手から離れて指先で硝子を撫でていた。ずっと描かれていたはず。夜通し談笑の外にいながら、世間と自身の間にキャンバスを立てて。それは強固な盾として頼られた。イメージは夜の間をすり抜けて行く。形にならぬ。絵にも物語にもならない。これまでのところは何だったのか。形容し難いものがつかえる苦しい朝に、誰か名前をつけてくれないか。飛ばし方を忘れたロケットの上に、まだ星が瞬いて見える。
影のように隠れ、縮み、潜み、光のように弾ける。加速する。もう一度、今度はもっと加速する。緩急をつけて密集から抜け出す。その時、お前は完全な自由の中にいる。自信を宿らせて敵を欺く。ドリブルは意識を利用したトリックなのだ。
ごまかして、やり過ごした。耐えて、踏みとどまって、乗り越えてきた。ようやくここまでたどり着いたが、ここはどこなのか。
「ここはどこ?」
自分が動いたり、風景が動いたように思えたりした。動いたのは時の方ではなかったか。
「よくきたね」
ここは生きたものだけがたどり着ける。
「これからの場所だよ」
ああ、やっぱりね。僕も今ちょうど同じことを考えていたんだ。ここはそんなところだ。前にもきたような気がするよ。