バガテル―そんな私のここだけの話 op. 236
アブラ、ミンミン、シャンシャン、ニイニンと、朝から蝉どもが鳴き叫んでいる。
私の郷里は丹波の国で関西ではあったが、なぜか蝉類の王たるクマゼミが少なかった。女王たるミンミンもそれほど多くはなく、大半がニイニイ、アブラ、ヒグラシという蝉類の中産階級だったが、稀にクマゼミやツクツクホウシを見付けようものなら目の色を変えて山中深く追いかけ回したものだった。
ところで世間では、セミはみな鳴くものだと思っている人が多いようだが、鳴くのは雄だけで、雌は鳴かない。彼女たちは炎天下で声を嗄らして鳴く男たちを、「このひと、弱そう」とか「こっちは長生きしそうだわ」などと呟きながら、涼しい木陰でひそかに品定めしているのである。
しかし女性第一主義の旗印の下で選択と性交が成就したとしても、地下で数年生きた彼らの地表で残された生命は長くない。わずか1週間ほどで姿を消していくのはホタルと同じである。
それにしても今それこそ全身全霊で鳴き喚いているセミは、去年の今頃この桜の木で鳴いていたアブラゼミと同じセミのような気がするのはなぜだろう。
去年今年蝉声粛々鳴き渡る 蝶人
道の辺に死者累々と今日の夏 蝶人