照る日曇る日第1597回
思うにムイシュキン公爵は、かのドン・キホーテやキリスト、あるいは我が家のコウ君の生まれ変わりみたいなもんだ。
昔から現在に至るまで、ムイシュキン公爵のような精神の障害を持ち乍ら、人間界の極北の燦然たる善なる価値を俗界に振りまく天然記念物的至純の存在は数多く存在したわけだが、それをこれくらいユーモラスに愛着をもって書き尽くしたドスト選手はまぎれもなく天才中の天才だろう。
終わり近くパーテイで調子に乗った公爵が、諸悪の根源たるローマ教会とその反動として出現した無神論をロシア的同根と断ずる大演説のノリも神がかりだし、その前の余命幾ばくもないイポリートの「手紙」の迫真的な独白も、その瞬間毎に激発し、全脳内に沸き起こるグルーヴ感が物凄い。彼以外の誰にも書けない宝物のような大文章だ。

非常時と知りつつ夏の運動会に現をぬかす人を憎めり 蝶人