照る日曇る日第1598回
今年84歳の作者が76歳で敢行(刊行)した、またしてもアッと驚く為五郎的国際陰謀ミステリーてんこ盛り超絶破天荒家庭小説!ずら。
これまでピンチョンは1963年の「V」、66年の「競売ナンバー49の叫び」、73年「重力の虹」以降、90年も「ヴァイランド」。97年の「メイスン&デイクソン」、06年の「逆光」、09年の「LAヴァイス」など、数少ない超ド級の総合大河宇宙小説を忘れられそうな頃にドスンドサンと生み落としているが、個人的にはホンシリーズ全9冊中で本書がいちばん面白かった。
解説によれば原題の「Bleeding Edge」とは、時代の最先端の技術がまだ十分に手懐けられていないというあぶない状況を指す形容詞らしい。昨今全盛の監視資本主義の時代にふさわしい超エッジィな小説だ。
今回のヒロインは才色兼備ながら既に2児を持つ異色の不正検査士だが、NYマンハッタンのアッパー・ウエストサイドを主舞台に大人になった美少女戦士セーラームーンのように大活躍。ドッドコム・バブル後の01年春から9.11の同時多発テロを挟んで02年の春までを、リアルとWebフィクション、サイバーとサイエンス、権力と自由、事実と創造と想像と妄想のあわいを縫って颯爽と駆け抜けるのさ。
PCはマイクロソフト、ネットはグーグル、動画視聴はユーチューブ、買い物はアマゾンという風にグローバル電脳独占資本に取り込まれた私としては、この小説に登場する疲れた中年男に倣って、「ネットの時代はもう終わった。そこには最初から破滅のプログラムが組み込まれていた」と言いたくて仕方がないようじゃね。
余談ながら映画になった「LAヴァイス」は面白かった。2013年のこの最新版サイバー・ロマネスクを映画にするなら、」主演は若き日のジーナ・ローランズ以外に考えられないが、彼女はまだ生きているのだろうか。
アマゾンの配達ちゅうのは自儘なり玄関先にポンと置いてく 蝶人