あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

黒柳徹子著「窓ぎわのトットちゃん」を読んで

2021-06-04 15:56:23 | Weblog

照る日曇る日第1586回


今思うと夢のような話だ。毎日のように「徹子の部屋」に出ている当の本人でさえそう思っているに違いない。
世界大戦前夜の数年間、トットちゃんが通っていた小林宗作校長先生の、いま振り返っても奇跡のように自由で、「子供本位」「子供本来」の小学校があったのは、自由の街、自由が丘だった。
大学に進学した丹波の山猿の私が、寝台急行「出雲」に乗って上京し、奥沢に住む親戚の紹介で初めて下宿したのが、かつてトットちゃんの通ったトモエ学園があった、この街だった。
トットちゃんたちが良く散歩した九品仏の浄真寺は、その広大さと豊かな緑と水の恵み、そして都会の真ん中とも思えぬ静謐さに恵まれた浄土宗の名刹であるが、奥沢のそのお世話になった親戚の墓所もこのお寺にあり、私もここを何度か訪れて学生生活の不毛と都会の喧騒を忘れることができた、かけがえのない場所だった。
トットちゃんたちが、小林校長や仲間と一緒に飯盒炊爨に出掛けた等々力渓谷にも思い出がある。敗戦間近の1944年、それはトモエ学園が米軍の空襲に遭って焼滅した年でもあるが、私の両親はこの私を安全安心!?に産むために、等々力の借家を引き払って郷里の丹波に引き上げたのである。
子供の教育の在り方について生きた実例をまざまざと示して感動を誘う本書の中身については、つとに知られたお話なのでここには触れないが、この本は、私の個人的な思い出に彩られた忘れがたい1冊なのである。


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コメント
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