音楽千夜一夜第477回
書斎の整理をしていたらクラシックの音楽会のパンフレットが出てきた。一つはブリテンの「ピーター・グライムズ」、もう一つは「マタイ受難曲」である。
前者は1979年の秋に英国ロイヤルオペラが来日した時のもので、コーリン・デイヴィス指揮のロイヤルオペラが、東京文化会館で4回公演したのである。
その何回目かは忘れたが、私は当時の大枚6千円の3階席を入手し、ブリテンの曲、デイヴィスの棒、オペラハウスの演奏、そして当時実力人気最高のジョン・ヴィッカースのテノールにいたく感銘を受けたことを、その公演の雰囲気を含めて今なお印象深く記憶している。
もう一つはその翌年1980年2月22日金曜夜の東京交響楽団第258回の定期演奏会である。
会場は同じく東京文化会館で、演奏されたのはバッハの「マタイ受難曲」。指揮は遠山信二というてんで知らない人。エヴァンゲリストをテノールの吉田征夫、イエスをバスの宮原昭吾と記されているが、指揮者の棒も、演奏も、歌手の誰かれの歌唱も何一つ覚えていない。「ピーター・グライムズ」とはえらい違いである。
当時の東響の音楽監督はいまも健在な秋山和慶で、次回258回の定期にはその秋山選手の棒で海野義男がチャイコフスキーの協奏曲を、261回には矢崎彦太郎の指揮で若き日のアンドラース・シェフが珍しやチャイコフスキーの協奏曲を弾いている。
ちなみに当時の私は貧乏なくせに何故かクラシック音楽の鑑賞に夢中になっていたらしく、在京のオケ全部の定期の会員になっていたが、その中で一番の贔屓はコケバンやヤマカズを迎えて熱い演奏を繰り広げる新星交響楽団であった。
とこえろが、それまではどうという印象もなかった読響が、どういう風の吹きまわしか1977年に突如チェリビダッケを迎えて、あのブラームスの4番と「展覧会の絵」の奇跡的な名演を聴かせてくれたことは、私の生涯の宝物となったのでありました。
カラヤンとベリンフィルの「運命」のフォルテッシモに揺れる我が家よ 蝶人