あまでうす日記

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ニーチェ全集・吉沢伝三郎訳「ツァラトゥストラ上」(ちくま学芸文庫刊)を読んで

2023-07-12 10:49:44 | Weblog

 

照る日曇る日 第1923回

 

55歳で肺炎で死んだ哲学者の風変わりな主著を読んでみる。在野の哲学者が、こんな哲学だか詩歌だか分らん阿呆リズムをばら撒いても誰の共感も得なかったことは、100年後の今日においてもさだめし然りだろうと思ったら、さにあらずニーチェ選手は実存主義の元祖として没後日を追って再評価され、世界的な注目を集めたそうだが、読めども読めども明快な意味がとれず、1行で済ませるところを百万語費やしているとしか思えない。

 

解説書などを読むと、彼はツァラトゥストラにおいてかの「永劫回帰」の思想を開陳したと書かれているが、少なくとも上巻ではその痕跡はなく、本書の要諦は第2部第2章「至福の島々で」におけるキリスト教全否定であろう。

 

「神は一個の思想である」、「神は一個の仮想されたものである」という思想や仮想が、「もし神々が存在するとすれば、どうしてわたしは神でないことに耐えられよう! それゆえ、神々は存在しない」というハチャメチャな結論に到達するのだが、パスカルのような敬虔な思想家でなくとも、われわれのような神でない普通の人間は、神でないことに普通に耐えられるのではないですか。

 

しかしながら、ここがロドスだ! ここで跳べ! 

 

凡人並の普通であることを峻拒したニーチェ選手は、その跳躍の論理的必然として「神なき時空における、神の代理人としての“超人”誕生」という、“あまりにも人間的な”思想に鮮やかに着地したのであった。

 

   物言わぬ人が怒りをため込んでいきなり人を殺したりする 蝶人

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