「これから詩を読み、書くひとのための」というサブタイトルがついた、どんぴしゃり私のような人間のための講義録です。
どこの頁を開いても、作者がこれまでに生きて来た人世の重さ、切実さに裏打ちされた貴重な詩の作り方、書き方の方策が、まるで泉から流れ出る甘露のように尽きることなく流れ出て、私たちの飢えて乾いた喉をすばやく潤してくれます。
例えば第1部の『詩を書くひとに話しておきたいこと』では、『泣かずに書けない』のこんなひとふし。
―「詩とは、つねにおごそかに向かい合いたい。自分が選びとった詩はわんわん泣きながら書いていたい。(中略)。泣きながら生まれてきたんだから、泣きべそをかきながら生きて、しっかりと泣き疲れて死にたい」に、つよく惹かれます。
あるいは、『人生の音』の『最後の言葉』の中の最後の一節。
―「長いあいだ、お世話になったね」の言葉に匹敵する詩をぼくは書けたか。なんてことはどうでもいい。大切なのは「長いあいだ お世話になったね」の言葉に匹敵する態度と感性を貫いて、生き抜くことができたかなんだと思います。
「生きるための詩というものがあっていい」と作者は説きますが、この本は、単なる詩作のための最強のテキストにとどまることなく、「人世いかに生きるべきか?」という古そうに見えて新しい、普遍的な問いかけへの、貴重な、久し振りの入門書でもあるようです。
本日のたったひとつの快楽は心ゆくまで小便せしこと 蝶人