照る日曇る日 第1931回
最近はあまり小説など出てこないので、もう作家家業からすっかり足を洗って、テレビキャスターや経済評論家?になりすましているんか、と思っていたら、突如これが出たので、おやまあ、と思って、読んでみました。
島田雅彦なんかは、この村上より若い方だけど、それでも昔を振り返って、「回顧録」というか「半自叙伝」らしき本を2冊も書いている。
ところで、これを読むまで知らなかったんだけど、村上龍ってなんと古希なんですね。誰でも歳をとる。そして歳をとると、なんだか昔を振り返りたくなってくる。これはああ、そういう本かな。
1976年に「限りなく透明に近いブルー」で颯爽とデビューしてから、現在に到るまでの、光も影もある人世や、なかんずく女との付き合いや、最近の暮らしのあれこれや心境やらを、小説的なオブラートにまぶさず、「正直」というのでも「露悪的」というのでもないが、わりと即物的に語っているところが、思いがけず新鮮だった。
人世に疲れているのか、人世を達観したのか、なんとなく全篇を覆う疲労と倦怠と死の翳りのアマルガムが、この世にありながら彼岸にあるような、不可思議な印象を醸し出していて、「へえっー、これが村上龍のいまなんだあ」と実感させてくれる、そおゆう「物語」ではなく「散文小説」の本。
むちゃくちゃな暑さにたまらず死んでいく無着成恭森村誠一 蝶人