高樹のぶ子著「小説小野小町 百夜」を読んで
照る日曇る日 第1930回
のぶ子さんによる半分史実、半分フィクションによる小野小町物語なり。
「小町」の母君が「大町」とは知らなかった。この美貌の東北美人と、天下の名筆にして問題児、小野篁とが一夜契った結果誕生したのが、われらがヒロインというわけだが、これって史実なのかしらん。
もっとも、いつ生まれて、いつ死んだかも不明な女性だから、おおかたは作り話になるに決まっている。
されど、7本作で彼女が関係する?のは意外に少なく、大本命が良岑宗貞、対抗がなんと僧遍昭、穴は叔父の小野良美で、安倍清行、在原業平、文屋康秀なんかは所謂ひとつのアトモスフェールとして雰囲気づくりに務めているというところか。
高樹のぶ子選手の筆だから、もっと女性優位の視線で男どもを見下す流れになるのかと思いきや、おおむね「古今集」序の紀貫之の穏健ラインで終始しているのが、ちと意外なりき。
いま鳴くはホトトギスと気がつきて慌てて飛び出すわれは家持 蝶人