遥かな昔、遠い所で 第119回
第5話 父帰る その1
前にも述べた通り、私の父は酒好き遊び好きで、飲む、打つ、買うの三拍子を、いずれ劣らず達者にやったものだ。それがいつまでたっても目が覚めず、四十を過ぎても五十を越してもまだやまず、かえってひどくなるというだらしなさ……もともと商売上手と人にもいわれ、世間の気受けもよく、金も相当儲けてきたものであるが、何分お人好しで、勝負事をしても人に取られるばかり、(おもに花をやった。本バクチはやらなかった)そのくせ大きなことが好きで、コメや相場に手を出して、身上にまたしては大穴をあける。金のかかる女出入りも絶え間がない、といった具合だから好い目の出よう道理はなく、母が忠実に守る履物屋の店もだんだんさびれ、借金は増す一方で家計は一日一日と窮地に追い込められていった。
その火の車の中で、明治四十三年四十九歳で母は病死した。
気の毒な母! まるで父に殺されたような母! 母をいとおしめばいとおしむほど、父への憎しみが深くなるのを、どうすることもできなかった。母のかたき、と私の父を見る眼は日増しに険しくなった。
母の死後ますますヤケになった父は、もはやわが家にも綾部の町にもいたたまれなくなって、大正元年、五十八の好い年をして若い芸者を連れて、世間には内緒で隠岐の島へ逃げて行ってしまった。
私はそれを舞鶴まで送って行きはしたものの、父に対する感情はとげとげしく、別れを惜しむというしおらしさなどはどこにもなく、父にもなかった。
父を送って帰った夜から、早くも債鬼は門院に迫って、私を借金地獄に追い込んで、貧乏あずりにあがき苦しむ日々が続いた。幸い私はこの四苦八苦の逆境を案外早くきりぬけて、借金払いも大体済ませ家業に忠実な妻と共に、履物店も旧状以上に回復し、生活もほぼ安定し、郡是株の強行買が当たって、だんだん好い目が見えてきた。
今までは思い出す隙もなく、もちろん父からは一度の便りとてなく、人のうわさにも聞かず、その消息は一切分からなかった。その父が、ひょっこり帰って来ようとは、夢にも思わぬことだった。
プーチンがキムに贈りし高級車んなもんおらっち欲しくはないぞ 蝶人