あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

辺見庸著「月」を読んで

2024-02-13 10:08:44 | Weblog

照る日曇る日 第2017回

 

フィクションと断りながらも、著者が津久井やまゆり園事件の犯人を念頭において、彼の生活と意見を彼に成り代わってシミュレートしてみた文学的な実験作であることは確かだろう。

 

前半は重度障害を持つ女性の内面を、そして後半ではそういう障害児者を「心失者」と呼んで殺害する男性の内的世界を、モノローグや詩的言語や様々な技法を駆使して浮かび上がらせ、最後は決意を固めた男性の意思表明と殺戮で終える構成だが、成功したとは思えない。

 

ラストは男性の革マル張の大演説だし、先行する前半部分が、彼の思想と殺意の成熟を的確に描写しているとは到底いえないからである。

 

それにしても、この小説を読んでいて、猛烈に不愉快な気分になるのは何故だろう?

それは著者が、あるいは著者もまた、現今の優性思想の跳梁跋扈を描き出すことはできても、それに対する根本的な解決策を持ちあわせず半ば捨て鉢になっているからに違いない。

 

げんざい本書を原作にした映画が上映されているらしいが、あまりみたいとは思わないな。

 

    読みたいなそのうち読もうと思う本みな読んでいる目黒実氏 蝶人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする