佐藤幹夫個人編集「飢餓陣営59 2024秋号」を読んで
照る日曇る日 第2115回
巻頭の2本のロングインタビューが読みごたえがありました。
とりわけ四方田犬彦氏が、前半の「越境する思想はどうつくられたのか」、後半の「文学と映画、在日問題、そして戦争をめぐる言論」について3時間にわたって一気呵成に語りに語った言説はきわめて興味深く、今号の白眉というてもよろしいのではないでしょうか。
四方田氏が、川田淳造に倣って、「物事をとらまえるには土地の測量と同様、3つの視座を踏まえて行う方が重層的なアプローチができて有効である」と喝破されている点、また氏が退屈な英文学者にならず、世界各地に滞在しながら現地の人々や生活文化と交流する中から新たな知見を獲得するようなライフスタイルを確立できたのは、最初にハングルも知らないのに韓国に飛んだこと、抑えきれない好奇心に駆られて文字通り「見る前に跳んだ」ことにはじまると振り返っておられるのは、日本映画を東アジア映画のほんの一部に過ぎないと見做しているという発言共々、「成程なあ」と納得できました。
心を全開にした四方田氏が、乗りに乗って多種多様な論題について縦横無尽、融通無碍に語り次いでいく有様はけだし壮観で、よほど聞き手の佐藤幹夫氏との相性が良かったに違いありません。後世への文化遺産として永久保存するに足るコンテンツが「飢餓陣営」に残されました。
そのほか添田馨氏の「原点は存在した、禿鷹はそこにいなかった」というタイトルの、憲法9条の戦力放棄論争を一挙に解決するようなマッカーサーと幣原首相の記念碑的歴史的な一期一会についての感動的な記録、水島英己氏の「沖縄への思い」の連載、佐藤和彩氏の「「蟻鱒鳶ル」が創る新しい景色」という異色の建築ルポルタージュと写真、佐川眞太郎氏の「兵士になること」という極私的な告白に胸を衝かれました。
時に木村和史氏の「家をつくる」ですが、次号の最終号までに、あの手作りの家は完成するのでしょうか?
ロシア人がピアノを弾いてウクライナ人が歌っているよワールドトレードセンター 蝶人